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 かつて、一国の経済活動を左右する「戦略物資」と言えば、原油などに代表されるエネルギー資源が主であった。ところが、2000年代以降はそうした資源に加えて、“21世紀の石油”とも例えられる「データ」が国家の安全保障に影響をおよぼすようになり、「半導体」が戦略物資として見なされる時代へと突入した。本連載では『資源と経済の世界地図』(鈴木一人著/PHP研究所)から、内容の一部を抜粋・再編集。「地経学」の視点から、資源や半導体などの戦略物資を巡って複雑化し、大きく揺れ動く国際経済の今を考える。

 第2回では、他国が仕掛けるES(エコノミック・ステイトクラフト)から自国の産業を守るため、政府・民間それぞれに必要となる経済安全保障上の戦略について考えていく。

ESと経済安全保障は何が違うのか

資源と経済の世界地図』(PHP研究所)

 ここまで見たように、「ES」と「経済安全保障」は別の概念と言える。いわば、他国から相手にとって効果的なESをかけられないよう、目配りしてリスク分析とその対策を行なっておくのが経済安全保障である、と言えるのではないか。

 つまり、ESは国家の主体的な行為として他国に対して何らかの意図を持って、経済的手段を通じて影響力を行使し、ESを発動する国家の望む結果が得られるかどうかが問題になるのに対し、経済安保は他者による意図的な行為であれ、災害などの非意図的な現象であれ、国家にとってその存在を脅かす事象に対処することが目的となる。

 両者の違いを一言でいえば、ESは「攻め」の姿勢であり、経済安保は「守り」の姿勢だということだ。経済安全保障は、自国を守ることを目的としており、ESのように相手の行動変容を積極的に求めるものではない

 経済安全保障を徹底しても、特定の国の産業を直接的に弱体化させたり、短期的に政治外交上の態度を変えさせたりすることは困難だ。むしろ経済安全保障は、自国の産業を守り相手からのES的な手段に対しても耐える能力を持つことを指す。