当然のことながら、ESを仕掛けてくる相手はこちらの弱み、脆弱性がどこにあるかを見抜いている。そのうち、どこを突けば自国の強みを使って相手にプレッシャーをかけられるかを知っている必要がある。そうした弱点を洗い出し、守りを固めておこうというのが経済安全保障だと言えるだろう。

国境を超えたサプライチェーンの中での自律

 日本では、2020年12月に発表された自民党の新国際秩序創造戦略本部による「提言『経済安全保障戦略策定』に向けて」を受けて、政府の成長戦略や2021年の「骨太の方針」にも反映され、2022年5月には経済安全保障推進法も成立した。自民党の提言では、経済安全保障は「国益を経済面から確保するもの」と位置づけられ、「我が国の独立と生存および繁栄を経済面から確保すること」と定義されている。そのための手段として、「戦略的自律性」と「戦略的不可欠性」を確保することが重要との認識を示している。

 ただし、言うまでもなく日本に必要なすべての製品やサービスを自律的に調達し、加工することは事実上不可能だ。原油やレアアースなど、そもそも特定地域でしか産出されない資源もある。しかも国境を超えたサプライチェーンが大きく広がり、国際的な分業体制がなされている中で、すべての製品や供給において自律性を求めれば無限のコストがかかる。日本として、何をどこまでコストをかけて戦略的に自律させるのかの検討が常に必要となる。

 また、不可欠性についても、基本的に唯一無二の産業や強みを日本が持つと言っても、主体は民間企業になる。政府の権限で国際的な技術開発を規制し、輸出を制限する事態になれば、民間企業にとっては莫大な損失やコストを生む恐れがある。国家戦略、政治の方針に対する企業側の納得も必要不可欠だ。

4つの対応策

 では実際の経済安全保障法案策定では、どのようなことが話し合われ、どのような要素が盛り込まれたのか。2021年11月、政府が開催した第1回経済安全保障推進会議では、まず取り組むべき分野として、次の4つの流出防止を示した。

①重要物資や原材料のサプライチェーンの強靭化
②基幹インフラ機能の安全性・信頼性の確保
③官民で重要技術を育成・支援する枠組み
④特許非公開化による機微な発明の流出防止

 ①のサプライチェーンについては、重要物資の安定供給確保の取り組み、例えば代替物資の開発などを行なう場合、助成支援や特例措置を設ける。また、「重要物資」として、医薬品、半導体などが想定された。