かつて、一国の経済活動を左右する「戦略物資」と言えば、原油などに代表されるエネルギー資源が主であった。ところが、2000年代以降はそうした資源に加えて、“21世紀の石油”とも例えられる「データ」が国家の安全保障に影響をおよぼすようになり、「半導体」が戦略物資として見なされる時代へと突入した。本連載では『資源と経済の世界地図』(鈴木一人著/PHP研究所)から、内容の一部を抜粋・再編集。「地経学」の視点から、資源や半導体などの戦略物資を巡って複雑化し、大きく揺れ動く国際経済の今を考える。
第3回では、中国の習近平政権が進める研究者の引き抜き「千人計画」などを例に、経済安全保障における技術不拡散がいかに重要であるかについて解説する。
「21世紀の石油」であるデータと半導体の関係
経済安保でカギとなる概念は他国への依存低減である。他国に依存することは、裏返せば脆弱性である。つまり特定の国に、ある品目を依存してしまうと、その国に対する脆弱性が増すことになる。
繰り返しになるが、2010年の漁船衝突事件とそれに対する中国のレアアース輸出制限というESで、日本の主力産業である自動車産業が大きな影響を被ったが、これは中国政府が日本の脆弱性がどこにあるかを見抜いたうえでの措置だった。
こうした状況を把握し、理解したうえで武器として使うのが経済インテリジェンスであり、中国は大いにその経済インテリジェンスを活かしたことになる。
これも繰り返しになるが、中国は戦略物資に限らず、汎用品であっても世界市場に競争力を持ち、寡占的に生産しているものをたくさん抱えている。「マスク」はその最たるもので、世界中のどこででも生産できるものだが、膨大な量を安価で効率的に作ることにおいては中国に優位性があった。
それゆえに中国で寡占的に作らざるを得ない状態となり、いざという時に中国の外交的レバレッジとなった。つまり、中国に対する他国の脆弱性になったということだ。