宇宙開発計画を話し合う日本政府の代表として米国へ出発する糸川英夫東大教授(中央)ら(1960年2月12日)
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「ものづくり大国」として生産方式に磨きをかけてきた結果、日本が苦手になってしまった「価値の創造」をどう強化していけばよいのか。本連載では、『国産ロケットの父 糸川英夫のイノベーション』の著者であり、故・糸川英夫博士から直に10年以上学んだ田中猪夫氏が、価値創造の仕組みと実践法について余すところなく解説する。

 第5回では、創造型組織「アドホックチーム」の5つの要素と、チームマネジメントの秘訣について紹介する。

連載
日本の強みを取り戻す「価値創造」実践講義

日本が苦手になってしまった「価値の創造」をどう強化するか。『国産ロケットの父 糸川英夫のイノベーション』の著者であり、故・糸川英夫博士から直に10年以上学んだ田中猪夫氏が、価値創造の仕組みと実践法について余すところなく解説します。

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アドホックチームの5つの要素

 新しいものを創り出す創造型組織とは、保存型組織にプラスされた臨時編成のアドホックチームである。アドホックチームは複数の異なる組織にまたがって編成されることがある。ロケット開発の場合は、糸川英夫博士が中心となって、東京大学生産技術研究所の専門家と富士精密工業、糸川研究室を横断して編成された。

 このようなアドホックチームには次の5つの要素がある。

①ネーミング

 ロケット開発の場合、アドホックチームは「AVSA」(Avionics and Supersonic Aerodynamics)と名付けられた。また、警察庁と糸川研究室のジョイントプロジェクトによって運転免許の発行管理システムを作った際のアドホックチームは「DLIMAS」(Drivers Licence Management System)と名付けられた。

 哲学的な表現になるが、名前が付くことでチームが存在している証になり、そのチームのメンバーに連帯感が生まれることにつながる。

②使命

 アドホックチームは使命を明らかにし、何をするために集まったのかをメンバーはしっかり頭に入れておく必要がある。できれば文書に落とし込んで明らかにしておく方がいい。

③コミュニケーション

 アドホックチームは情報フローが組織図になる。創造型組織であれば、情報フロー(コミュニケーションネットワーク)に含まれていれば、そのアドホックチームのメンバーということになる。

 メーリングリストであれSlackであれ、あるいはプロジェクトマネジメントツールであれ、チームで何らかの共通のコミュニケーションネットワーク手段を用意する必要がある。

④連帯感

 アドホックチームには連帯感が必要だ。しかし、連帯感は同質性とは違う。みんなが違うことをやり、違う性格であったとしても、使命に向かい連帯していることが必要だ。

⑤組織外との関係

 アドホックチームの連帯感が強固になればなるほど、アドホックチームから見た外部から孤立しがちになる。アドホックチームには広報という部門はないので、内部と外部とのコミュニケーションをする機会を1週間に一度とか1カ月に一度というように定期的に作ることが必要だ。