立正大学 データサイエンス学部 教授の渡辺美智子氏
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 長らく経済成長が停滞している日本において、DX人材の育成が喫緊の課題となっている。しかし、自社の未来に必要となるDX人材の姿を明確に描けていない企業は少なくない。データドリブン経営の重要性が高まる中、企業にはどのようなDX人材が必要なのか。そうした人材をどう育てればいいのか。立正大学データサイエンス学部の渡辺美智子教授に話を聞いた。

取得コストが下がり、誰でも容易にデータを扱える時代に

――立正大学では2021年4月に「データサイエンス学部」を開設し、「データサイエンティスト」の育成を行っています。データサイエンティストとはどのような人を指すのでしょうか。

渡辺 美智子/立正大学 データサイエンス学部 教授

滋賀大学 教育研究アドバイザリーボード委員。立正大学データサイエンス学部教授/理学博士。担当科目は、「アスリートのためのデータサイエンス」、「サービスデータサイエンス」、放送大学TV「身近な統計」。「デジタル社会の統計リテラシー」、「データサイエンス基礎から応用」の主任講師も務める。2012年度日本統計学会賞受賞、2017年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞受賞。現在、日本学術会議連携会員、応用統計学会前副会長。

渡辺美智子氏(以下敬称略) 長い間、日本では統計学として、数理統計や確率の理論を教えてきました。その結果 、統計学が「一般の人にはよく理解できない専門性の高い学問」であり、「一般の社会人が日常ではほとんど使わないもの、もしくは、使えないもの」になってしまいました。

 ところが、欧米では1990年代初頭より、統計の理論ではなく、統計学実践の基礎を教えるようになりました。幼稚園から大学初年次までの教育体系に組み込んで、全国民のデータ活用マインドを醸成したのです。そうした下地が、統計的なモノの見方や考え方でデータを活用してビジネス上の課題を解決したり、新しい価値を創造したりする人材を創出することとなり、いわゆるGAFAが生まれたと考えています。

 一方で、学校教育課程にデータハンドリング教育を全く位置付けてこなかった日本の出遅れは深刻です。その中で、ここ数年始まった日本政府の「デジタル人材育成」に向けた初等中等教育から大学等高等教育、社会人のリカレント教育に至る取り組みによって、大学の中でも新しい学位プログラム「データサイエンス学士」の創設が始まっています。

 立正大学データサイエンス学部でも、データに基づいて実課題を意識した問題解決のプロセスを回せる人を広義のデータサイエンティストとして育成しようとしています。

――日本企業の間でも急速にデータの重要性が語られることが多くなりました。

渡辺 ビッグデータが叫ばれる以前はデータを取得するために調査や実験などをする必要があり、コストがかかるためデータは容易に入手できるものではありませんでした。同時に、統計的なデータ分析自身も専門家だけの手法とされていたのです。

 しかし、現在ではデータを取得するコストが大幅に下がり、誰もが簡単に利用できる時代になりました。例えばこうした取材でも、音声データをソフトで自動的にテキスト化し、頻出する言葉を抽出すれば話し手の趣旨や論点がわかり、記事の骨格は出来上がりますよね。

 このように数値データ以外にもテキストや音声といったデータの取得が容易になったことで、データをビジネスに有効活用し、仕事のプロセスの効率化や新しい価値の創造ができるという認識が広がり、日本でもデータサイエンスの重要性が再認識されるようになりました。