社長経験者が他社の社外取締役に就任できる環境を
――実質的に、取締役会の改革に踏み出せない企業も少なくないと思います。どこから手を付ければいいのでしょうか。
阿部 透明性、説明責任、客観性を各ステークホルダーに対して、明確に示すことが基本です。この意識を持った人材で取締役会を構成するために、大事になるのは社外取締役の選定です。しかし、社外取締役の「なり手」は少ないのが現状です。
特に、女性の社外取締役は、非常に少ない状況です。ぜひお願いしたいという人が見つかっても、すでに複数社を担当されているなど、引っ張りだこです。1人が社外取締役として受け持てる会社の数には限りがあります。私も2社の社外取締役を務めていますが、このそれぞれの会社について責任を持って務めるために、これ以上はお受けしないと決めています。
そこで私の提案です。社長を務めた方は相談役や顧問などのキャリアを進む場合が多いですが、社長を辞めた後は、別の会社の社外取締役になるというものです。
なぜなら、大企業の社長経験者は、取締役会の在り方について、しっかりした考えを持っているからです。その知見を、ぜひ他の企業にも生かしていただきたいのです。報酬面の問題もありますが、社長在任中の報酬を今よりも引き上げるなどの対応ができれば、より現実的になると思います。なんとかうまく仕組みを変えられたらいいですね。
また、経験が少ない人でも社外取締役の役割を果たすために、一定期間は教育プログラムを受けていただくことも必要だと考えています。これは、他社で一定以上の地位を築かれた方に、改めて勉強していただくことになるため、難しい面もあります。しかし、株主などのステークホルダーからすれば、社外取締役は、その会社の基本的なことを知っている人が務めることが前提です。
外部者としての意見も受けとめて議事運営する
――社外取締役は、その会社のことを知った上で、外部者としての客観的な意見を述べられる人でなければいけないということですね。
阿部 そうです。逆に、社外取締役はその会社に慣れすぎてしまっても、駄目だと思っています。ずっと長くやっていると、どうしても感受性が落ちてきます。最初は「あり得ない」と思ったことも、繰り返し聞いていると感覚が鈍くなります。外部者としてのマインドを持ち続けることが、社外取締役の付加価値ではないでしょうか。
外部者の指摘は、説明責任の観点からも必要ですが、イノベーションを生み出す意思決定にも重要な役割を果たすことがあります。社内のメンバーだけでは、どうしても従来の延長線上の議論しかできません。
そういうときに、社外からの意見は貴重です。場合によっては、ビジネス経験がない人の声にも耳を傾けることで、既定路線のビジネスを終了したり、新しいアイデアが誕生したりすることもあります。富士通の取締役会では、社外取締役の多様な発言も率直に聞き入れ、フェアに議論できる土壌ができています。私も議長として、できるだけ率直な意見を引き出せるよう、運営に努めています。
