立命館大学大学院経営管理研究科 教授の谷口学氏(撮影:宮崎訓幸)

 東京証券取引所が上場企業に対して資本効率改善を意識した経営を要請するなど、企業の収益性向上への取り組みが問われている。立命館大学大学院経営管理研究科の谷口学教授は改革のためにはCFO(最高財務責任者)の存在が鍵を握るとし、会計と経営戦略をつなぐ、いわば会計参謀としての役割が求められると説く。

日本の国際競争力向上の鍵を握るCFO

――企業における従来の経理財務部門に対して、これからのCFOには何が求められますか。また、そのようにCFOの位置付けが重要視されるようになった背景は何でしょうか。

谷口 学/立命館大学大学院経営管理研究科 教授

1997年太田昭和監査法人に入所。監査業務、株式公開支援、財務デューデリ等の業務に従事。2003年に入社した三洋電機では戦略立案業務、再生計画の策定、M&A業務に携わる。2014年損害保険ジャパン顧問。2017年より現職。2021年には京都新聞ホールディングス常務取締役にも就任。

谷口学氏(以下敬称略) 日本企業における財務担当役員は、従前は「金庫番」といわれるように決算、経理、税務などの役割に限定されているイメージでした。管理部門は戦略機能を求められてこなかったのです。

 しかしそれも過去のことになりました。きっかけの1つは、東京証券取引所(東証)が資本効率改善を意識した経営を企業に要請したことです。喫緊の課題としては、経営戦略、中期経営計画(中計)などへのアカウンタビリティー(説明責任)に対する積極的な関与がCFOに求められています。東証の要請に応えるには、自己株式の取得や増配といった短期的な施策ではなく、研究開発や人材への投資、そして事業ポートフォリオの見直しなど中長期的な価値創造プロセスが必要です。それはCFOの有する会計的手法や見識がなければ難しい問題です。

 これからのCFOは、CEO(最高経営責任者)のそばで経営戦略そのものを一緒に考え、それを目標数値に落として、社外に客観的に説得力を持った形で発信していかなければなりません。会計基準に準拠した財務諸表を作成したら終わりではなく、そこが始まりと考える必要があるでしょう。

 CFOには管理会計などの知見、さらには経営戦略などアカデミックな知見も駆使して、戦略まで展開する能力が求められます。そのためには、財務経理と戦略の2つの機能が結びつく必要性があります。管理部門だけで完結する話ではなく、組織の壁を超えて取り組まなければならない課題だと思います。

 振り返れば、2014年に策定・公表された「日本版スチュワードシップコード(責任ある機関投資家の諸原則)」、2015年に策定・公表された「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」などについて、どちらかといえば企業は後ろ向きに捉えている側面もあったように思います。

 東証が今、改めて要請を出した根本的な理由は、日本企業の投資効率の低さにあります。日本の場合、米国企業などと比べて、株主からの資本効率経営のプレッシャーが強くありませんでした。それは、機関投資家が長らく「物言わぬ株主」であったことや、企業間で相互に株式を持ち合う安定株主施策などによるものです。結果的に、企業体として変化をしてこなかったことは、米国企業と日本企業の、時価総額の順位の変動にも表れています。日本企業の内部留保の多さは問題とされています。新しい効率的な投資先を見つけることができず、変化ができていないために、国際的な競争力を落としていったところが一番の背景にあると思います。