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 PBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)は企業価値を示す重要な指標だが、日本は「PBR1倍割れ」している企業が世界でも突出して多い。これは株主から集めた資金を有効活用できていない状態であり、かねてから問題視されてきた。企業広報戦略研究所(電通PRコンサルティング)の設立10周年を記念するセミナーでは、広報の視点からこの問題に着目。日本企業がステークホルダーに自社の魅力を適切に伝え、PBRを引き上げるための施策について語られた。

広報活動の実施率が高い企業でPBRが向上、注目すべき3つの広報力とは

 株価を1株あたりの純資産で割って算出するPBRが1倍を割り込むことは、事業活動をやめて解散する場合の「解散価値」がマイナスだということを意味する。2022年には日本の主要企業でPBR1倍割れの企業が4割に上ることが指摘され、2023年には東京証券取引所がPBR1倍割れ企業に改善策開示を要請する方針を打ち出している。

河本 昇吾/電通PRコンサルティング 第2PRソリューション局 プランナー 兼 企業広報戦略研究所 主席研究員

プレスリリース・ニュースリリース配信のプラットフォームを運営する PR 会社に新卒で入社し、スタートアップから大手企業まで、プレスリリースのライティングから配信・メディアプロモートまでのコンサルティング業務に従事、プレスリリースに関するセミナー講師なども担当。プロスポーツチームの広報支援を行うプロジェクトの責任者などを務めたのち、 2022 年に電通 PR コンサルティングに入社。同社では通信・保険・自動車・電機メーカー・外資系メーカー・玩具メーカーなど幅広い領域の企業における広報 PR サポート業務や PR プランニング・コンサルティングを担当。2023年度より企業広報戦略研究所の主席研究員として参画。

 企業広報戦略研究所の今回のセミナーでは、広報的視点からPBRの株価の部分にフォーカス。「企業広報力とPBRの関係分析」「非財務・ESG調査の伝え方」「魅力度ブランディング調査2023」の3つのテーマを通して、PBRを引き上げるための企業広報施策について考察がなされた。

 1つ目のテーマ「企業広報力とPBRの関係分析」では、企業広報力とPBRに明らかな相関性があることが述べられた。2014年から日本の上場企業を対象に、同研究所が隔年実施している「企業広報力調査」の2022年の結果と分析を踏まえ、企業広報戦略研究所主席研究員の河本昇吾氏は次のように語った。

「私たちは広報力を『自社の価値を伝える力』と定義づけ、9つのカテゴリに分けて企業ごとに点数化しています。これとPBRを照らし合わせて分析した結果、PBR1倍以上の企業の広報力のスコアが、PBR1倍割れの企業に比べて高いことが分かりました。特にその差が顕著だったのは、『課題把握力』『クリエイティブ力』『広報組織力』です」(河本氏)

出所:企業広報戦略研究所「PBR1 倍割れ、その時企業は?~ステークホルダーへの非財務情報と企業魅力の伝え方~」
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 同研究所が定義する課題把握力とは「メディアや広報ターゲットからの期待や不安を捉え、広報課題を発見・設定する能力」だ。PBR1倍以上の企業は、PBR1倍割れの企業に比べて、課題把握力のポイントが11.0高い。また、「戦略にもとづいて企業や商品の魅力を伝える力」であるクリエイティブ力は11.3ポイント、「経営戦略と広報戦略を連携させる組織的能力」である広報組織力は9.5ポイントもPBR1倍以上の企業のほうが高かった。

 両者の差異をさらに細かく分析すると、課題把握力では「生活者・顧客からの期待や不満、株主・投資家からの要望を把握・分析している」という項目で、16.4ポイントと最も差が大きかった。クリエイティブ力では「メディアの興味・関心を捉えたコンテンツ設計」「広報戦略にもとづいたPRメッセージ・ストーリー」、広報組織力では「トップと広報部門の定期的なコミュニケーション」「経営層との広報戦略の共有」で大きな差異が見られたという。

「以上のことから、ステークホルダーの期待と不安を把握・分析し、メディア目線でコンテンツを設計しながら、広報と経営で密なコミュニケーションをとって広報活動をしていくことが、PBR向上、ひいては企業価値向上につながっていくと考えられます」(河本氏)