kenchiro168/Shutterstock.com

 日本最大のAI専門メディア「AINOW」の編集長が、先進企業の生成AI活用法を大公開。本連載では、生成AIを企業に導入する手順、既存システムとの連携法、プロンプトエンジニアリング術にいたるまで実践的に解説した『生成AI導入の教科書』(小澤健祐著/ワン・パブリッシング)から、内容の一部を抜粋・再編集。国内企業のベストプラクティスを題材に、生成AIを生かしたビジネス変革の方法に迫る。

 第4回目は、求人情報サイト「バイトル」を運営するディップにおける、生成AIの活用事例を取り上げる。

<連載ラインアップ>
第1回 きっかけは入社式の安藤CEOのメッセージ、日清食品HDのCIOが語る生成AI導入
第2回 ベネッセグループ1万5000人が使う「Benesse Chat」は、なぜ生まれたのか?
第3回 ベネッセグループに学ぶ、生成AI導入「5つのステップ」と「壁」の乗り越え方
■第4回 日本最大級の求人情報サイト「バイトル」を運営するディップの生成AI活用法(本稿)

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。

<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
会員登録(無料)はこちらから

ディップ:250名のアンバサダーで生成AI活用を推進

生成AI導入の教科書』(ワン・パブリッシング)
拡大画像表示
【​お話をうかがった方】
ディップ株式会社 CIO
鈴木孝知さん
 
1998年、日本電信電話株式会社に入社。その後、株式会社日経BPや株式会社リクルートを経て、2014年に株式会社マガシークにて執行役員、dfashion本部長を務め、2019年からは株式会社出前館へ。同社取締役兼執行役員、プロダクト本部長として活躍したのち、ディップ株式会社CIOに。現在は生成AI活用プロジェクトを推進する。

――日本最大級の求人情報サイト「バイトル」などを運営されているディップでは、生成AIをどのように活用されているか、まずはその取り組みを教えてください。

鈴木 ディップでは、「現場主導」「スピード」「全社横断」をコンセプトにした組織「dip AI Force」を立ち上げ、全社で生成AI活用を進めており、直近では約60%以上の従業員が生成AIを利用しています。

 目指すのは〝考えること〞を徹底的にAIへ委ね、従業員が頭を悩ませる時間を大幅に削減することです。活用に向けた取り組みとしては、大きく分けて以下の3つがあります。

 ひとつは、AIを活用した事業推進です。「バイトル」のような求人情報サイトは、生成AIの登場により「大量の求人情報から検索する・選ぶ」時代から「対話しながら最適な仕事に出会える」時代に変化していくと考えています。対話によって一人ひとりの潜在的ニーズを把握し、最適なマッチングを実現できるような事業展開を目指し、東京大学松尾豊研究室の成果活用型企業である株式会社松尾研究所と連携した共同研究を実施しています。

 ふたつめは、全従業員が生成AIを活用できるような環境作り。多機能ドキュメントツール「Notion」のデータベース機能を活用した当社独自のAIポータルページを作成し、200以上のChatGPTのプロンプトデータベースを公開し、テンプレートを活用できる環境を構築しています。GPT-4に対応したSlack-botも立ち上げ、全社員がオープンなスペースで生成AIを活用できるよう促進を図っています。現場の社員が目的にあったプロンプトを検索し、すぐに使える環境を構築することで、生成AIの活用率は一時8割を超える結果になりました。

 最後は、部署ごとの生成AI活用の推進です。社内FAQのAI化、コード生成/コードレビューの自動化、議事録作成の自動化など、部署特有の業務に適応した開発が必要なケースが増えてきています。そのような特定の業務に関する6つのプロジェクトが進行しており、それぞれで利便性の高いシステムの開発を進めています。

――生成AIの導入は、どのようなステップで進めましたか?

鈴木 真っ先に取り組んだのは、ChatGPTなどの生成AIツールを活用する費用を補助する仕組みの整備です。全従業員が生成AIツールの利用費用を経費精算できる制度を整えることで、まずはトライできる環境は作れたと思います。

 そのなかで、「dip AI Force」の組織作りを同時並行で進めながら、ガイドラインの策定やプロンプトデータベースの整備などに取り組みました。なによりも取り組みを始めることが重要で、使ってもらうことで多くの従業員に生成AIの可能性を実感してもらい、社内の活用推進もスムーズに行えたと感じています。

――組織作りの面で工夫したことはありますか?

鈴木 「dip AI Force」を迅速に設置し、役員がコミットすることはもちろん、全国の組織から生成AIの推進に興味があるメンバーが集まり、各部署の課題感や現状を共有できる仕組みにした点です。

 また、ディップでは新しい取り組みを行う場合、全社のあらゆる部署にアンバサダーを設置して推進する文化があります。生成AI活用においては、当社史上最大の約250名のアンバサダーを全国に配置し、各部署の生成AI活用を推進したり、現場の質問に答えたりする役割を担っています。