「がんばれ!! 日本のモノづくり」という企業メッセージに、なにより「顧客のため、社会のため」を優先するという信念を込めているトラスコ中山。この信念を体現するための手だてとしているのが、デジタルツールだ。人工知能(AI)による自動見積回答システムはその一つ。顧客からの見積依頼に最短5秒で回答するというビジネス変革をもたらした。だが、導入までには、関係者たちの行動をいかに変えるかという挑戦的課題があった。
変革の手段としてのDXを推進
「『デジタルを使って何か革新的なことをやるぞ』みたいなことを社内で言ったことはありません」
これは、トラスコ中山を率いる社長の中山哲也氏はじめ経営陣が、口を揃えて公言することだ。デジタルツールはあくまでツール。顧客のためにつながる変革であれば手段を厭わないという考えがうかがえる。
とはいえ、デジタルツール抜きに変革の手段を築きあげるという選択肢はこの情報社会においてありえない。第1回で登場した取締役の数見篤氏は、「常に進化しつづけるトラスコ中山の企業風土の中に存在する要素のひとつが、いわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX)なのだと捉えています」と話す。
同社は、手段としてのDXのロードマップを描いている。2019年から2020年にかけての段階を「DX1.0」と位置づけた。この段階の主旨は「自動化できる仕事はすべて自動化する」。基幹システムを刷新して「SAP S/4HANA」を導入するといった基礎がためをするとともに、「DX2.0以降」を首尾よく進める布石のためにも社内外に「DX1.0」の取り組みをかたちとして見せていきたい。「家づくりでいうと、基礎をつくるとともに、1階を建てはじめもするといったイメージです」(数見氏)。
この「DX1.0」において、社員にはもちろん、顧客にも目に見えるかたちの成果のひとつとなったのが、AI自動見積回答システム「即答名人」だ。