メンタルヘルスも注目市場に

 人口の高齢化と世界的なコロナ禍の影響で社会的弱者の孤立が拡大し、それが健康への悪影響につながっている。処方箋としてメンタルヘルスが注目を浴びている。このカテゴリーには新興スタートアップが数多く参入してきているのが印象的だ。CESのイノベーションアワードを獲得した代表的な事例を3件紹介したい。

 フランスのメディカルデバイス企業、カドゥシー(Caducy)による「i-Virtual」は30秒間のビデオセルフィーで身体と心の状態、すなわち心拍数、呼吸数、血圧、ウェルビーングの状態(心拍数の変化やストレスレベル)をセンシングし、AIがスコアリングしてくれるユニークなサービスである。i-Virtualはカドゥシーのウェブサイト上からSaaS(Software as a Service)の形態で提供され、ウェブカメラが付いたPC、タブレット、スマートフォンで利用が可能である。

(参考動画)カドゥシー「i-Virtual」のデモ動画(筆者撮影)

 ジャック・SG・チェンとデニス・シューベンスという米国の2人の若者が起業したクレードル(Crdl)の 「Cradle」 は、認知症、自閉症、精神障害、視覚障害などによって社会的な孤立の状態に苦しむ人々の治療器具であり、同時に癒しの芸術作品でもある。摩訶不思議なセラピーツールとしてCES 2023の会場でもひときわ異彩を放っていた。

 介護者と患者がCradleに同時に手を触れることで、そのタッチが音楽に変換される仕組みを持つ。さまざまな種類のタッチがさまざまなサウンドを生み出すトリガーとなり、エモーショナルな体験を生み出すことで、患者が自然かつ自発的につながることを可能にするという。

Crdlの「Cradle」。「ケアはタッチすること」という信念のもと、介護者と患者が同時に「Cradle」を撫でたり、叩いたり、こねたりすることで様々な種類の音楽が生まれ、人間的なつながりが意識される(筆者撮影)

 社会的孤立の解消という点では、人間に寄り添うパートナーとしてペットの担う役割も大きい。米国のGPS関連企業、インボシア(invoxia)は愛犬の健康と安全を守るスマート首輪「Smart Dog Collar」を開発、昨年のCES 2022ではイノベーションアワードを受賞したが、今年はサンズ会場に大きなブースを構えて発売間近の「Smart Dog Collar」パワーアップ版を展示していた。

 このスマート首輪は飼い主のスマホアプリと連動し、愛犬の心臓の鼓動、睡眠時の心臓と呼吸の状態、GPSトラッキングによる日々の活動レベルなどのモニタリングを継続的に行う。アップルウォッチと連動してiPhone上でヘルスケアやフィットネスのアプリを使っている人ならサービスのイメージがしやすいだろう。ブースで担当者に確認したところ、2023年Q1発売から発売予定とのこと。販売価格は149ドルという。

インボシア(invoxia)による愛犬のスマート首輪「Smart Dog Collar」。愛犬の健康状態の把握だけでなく、迷子も防止することができる(出典:インボシアのウェブサイト)

最先端テックでリハビリや車椅子も進化

 MEMSセンサー、AI、IoTクラウド、ロボティクス、GPSといった最先端テックがヘルスケアに入り込むことで、治療や疾病予防の周辺の領域、具体的に言うとリハビリや病院内を移動するための車椅子なども進化する。

 ロボティクス関連のスタートアップ、H・ロボティクス(H・ROBOTICS)のリブレス(rebless)は、上肢と下肢の両方のリハビリに対応する、FDA(アメリカ食品医薬品局)登録のロボット治療装置で、肘、手首、足首、膝の関節の治療に効果を発揮する。患者がこの治療装置とアプリを使い、自宅で継続的かつ段階的なリハビリテーションを可能にするシステムだ。