デジタル庁では、「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を」というスローガンの下、デジタルの活用によって一人一人の幸せを実現する社会を目指している。それでは、実際にどうすれば「人に優しいデジタル化」を成し遂げられるのだろうか。慶應義塾大学総合政策学部教授の國領二郎氏が、誰もがあまねくデジタル化の恩恵を受けられる、ユーザー目線に立ったシステムづくりについて自身の見解を語った。

※本コンテンツは、2022年7月20日に開催されたJBpress/JDIR主催「第4回 公共DXフォーラム~デジタルの力で実現する誰もが住みやすいまち~」の基調講演「誰一人取り残されない人に優しいデジタル化」の内容を採録したものです。

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「人に優しいデジタル化」に必要なDXの考え方

 2021年9月に、デジタル社会実現の司令塔として発足したデジタル庁では、「人に優しいデジタル化」を目指している。それを実現するために、まずはDXの基本的な考え方の2つを知ることが大切だと、國領氏は語る。

 1つ目は、「人がシステムに合わせるのではなく、システムが人に合わせる」という発想だ。20世紀の情報化では、電算処理に代表されるようにコンピュータを使って定型的な業務を効率的に処理できるようになる一方で、例外的な処理に関してはその都度人が介在しなければならなかった。ところが21世紀の情報化においては、システム自体がユーザーの用途や使い方に合わせて、柔軟にサービスを提供できるようになりつつある。つまり、よほど特殊なケースを除いて、人が一切関わらなくてもシステムのみで業務を完結できるのだ。

 2つ目は、「システムを構築する上で、計画性よりも柔軟性が求められる」という点だ。従来は安定した環境を前提として、計画に忠実に仕組みを構築していた。しかし、ネットワークが発達してシステム同士が干渉し合うようになっている今の時代では、さまざまな要因が複雑に相互作用し、予期せぬ結果を生むことが十分にあり得る。

 情報発信においても、以前は情報を発信してから人々に届くまで時間差があったので、誤りがあった場合でも修正できたが、今日では起こった出来事に対する情報がリアルタイムで全世界に共有されることも当たり前だ。意図的に人々をかく乱するフェイクニュースが報道されるといった問題も、しばしば起こっている。

 このような時代では、環境の変化や人々のニーズに柔軟に対応できる「レジリエント(柔軟)」で、なおかつそれに対応できる「アジャイル(俊敏)」な情報システムの構築が必要であると國領氏は述べる。これまでのように大規模システムを数年かけてつくり上げるのではなく、変化に対応できるよう素早く構築し、それを動かしながら随時調整していく柔軟性がより強く求められるのだ。