人口減による人手不足解消を新たなパーパスに

 テスラはなぜ「高コストで技術的なハードルも高い」リスクを背負ってまで人型ロボットの開発に執着するのか?

 2003年創業のテスラが“石油依存社会からの脱却”をミッションに掲げ、EVや太陽光パネル、蓄電システムなどの普及に取り組んできたのは周知の通りである。その結果、ESG(環境・社会・企業ガバナンス)投資への関心の高まりを追い風にグリーンテクノロジーの代表銘柄となり、2022年9月30日終値ベースの企業時価総額は、トヨタ自動車の約4倍に当たる約8300億ドル(約120兆円)に達している(日本経済新聞、2022年10月1日)

 そのテスラが新たに向き合う社会課題が、世界的な出生率の低下に伴う人口減少であり、将来的な労働人口の不足だ。

 リーズナブルな価格で提供される人型ロボットが人間の代わりに(あるいは人間に混じって)工場のラインで働いたり、単純な肉体労働を受け持ったりすることで、「文明にとって根本的な変革が起きる」という。

「AI day 2022」のプレゼンテーションの中でイーロン・マスクCEOは「豊かで貧困のない未来の実現」をテスラのパーパス(社会的な存在意義)に加える考えを示した。

 将来的に人間に寄り添い、人間社会で共存するロボットは人型であるべきだというパーパス文脈の考え方は、サステナビリティが重視される時代、確かに一定以上の説得力を持つように思う。

 加えて高邁なパーパスの下でイーロン・マスクCEO自らが人型ロボットの開発というチャレンジングなプロジェクトに力強いコミットメントを行うことで、ロボティクスやAI分野での「超」優秀な人材を集めやすくなる(グーグル、アップル、マイクロソフト、アマゾンなどに超優秀人材獲得で劣後しない)という副次的なメリットも期待できる。

人型か車輪型か、ロボットの未来の姿はどちらか?

 それではロボットの未来の姿は人型・車輪型、どちらになるのであろうか?

 2000年以降の歴史を振り返ってみると、人型ロボットは「ロボット」と聞いて連想するイメージの原点にある一方で、少なくともこれまでは輝かしい成功事例がないというのも厳然たる事実である。