ボストン・ダイナミクスの「アトラス」も、映画『エクス・マキナ』の美しい女性型AIロボットも、いずれも「人型」をしているという認知心理学的なバイアスが周囲の人間の「心を動かす原動力」となっていることは間違いがない。

 しかし、もしもそのエモーショナルな部分が経済的なプレミアム価値(コモディティ化しない)の源泉になるのだとしたら・・・。人手不足の解消という「パーパス」の実現の裏側で、イーロン・マスクCEOが強かに算盤を弾いているということになるのだろう。

リスクを取る起業家を支援する米国社会の強さ

 テスラにとっては、傘下のスペースXで展開している民間の宇宙ビジネスの成功への道筋が、人型ロボット開発への懐疑論を吹き飛ばす最も効果的な起爆剤になるかもしれない。

 スペースXは将来的な地球の温暖化や天然資源の枯渇を見据えて、月や火星への移住を視野に入れた宇宙ビジネスの展開を目論んでいる。アメリカが再び月へ人類を送る「アルテミス計画」でスペースXがNASAから事業を受注したことで、民間企業が宇宙ビジネスに進出することに対する懐疑論は吹き飛んだ。

 宇宙開発という国家プロジェクトを、ボーイングのような伝統企業ではなく、創立わずか20年の民間の新興企業が担う。これ自体が大きなゲームチェンジだ。2025年までにはスペースXのロケット(しかも再利用可能だ)や月着陸船を使って再び人類が月面に降り立つことになるだろう。

 人型ロボットの実用化には、イーロン・マスクCEOのようにあえて大きなリスクを取る起業家と、それを官と民が一体になって資金や人材の点で背後からバックアップする社会のシステムの両方が不可欠だ。実現のハードルは高く、今後も懐疑論が根強く付きまとうかもしれないが、アメリカにはそうした経済的&社会的な土壌が従来からある。

 だが、残念ながら今の日本にはその気運が乏しい。国民一人ひとりの資質の優劣ではなく、経済的&社会的なシステムの有無が、この30年、国家レベルで日米の彼我の差が拡大した根本原因かもしれない。

 2018年のホンダのASIMOの開発中止と今回のテスラによるオプティマスの初公開。ともに技術イメージの高い自動車会社によるロボット開発プロジェクトにまつわるニュースという共通点もあり、日本人としてはその明暗にいささか感傷的な気持ちにならざるを得ない。