メタバース、ウェブ3.0など新分野がグレートリセットを促進

 その他、CES 2023ではデジタルヘルス、メタバース、EV、輸送とモビリティ、リモートワークテック、ウェブ3.0(ブロックチェーン技術による分散型インターネット環境。アカウントの作成が不要)などが見どころになると予告されている。開催が近づくにつれて、新分野の展示やセミナーに関する情報も増えていくだろう。

 もちろん、これらの最先端テクノロジーがヒューマンセキュリティを担保し、経済発展と環境・社会がパラコンシステント(同時実現)であることが大前提であることは、もはや言うまでもない。むしろ、メタバース、リモートワークテック、ウェブ3.0などの最先端の技術をきっかけに社会全体がサステナビリティへのグレートリセットへ進むとポジティブに考えていくと、CES 2023の景色は全く違って見えるはずだ。

 またCES 2023の会期後半には別の山場がある。1月7日にはラスベガス北部のラスベガス・モータースピードウェイでフォーミュラカー・ダラーラAV-21をベース車両にした自動運転レーシングカーの賞金レース「インディ・オートノマス・チャレンジ」(以下、IAC)が昨年に引き続き開催される。

 CES 2022ではIACは一般来場者には非公開で、事前登録したメディア関係者とごく少数のスポンサー関係者のみしか観戦を許可されなかったので、日本からの参加者は筆者も含めごくごく少数だった。しかしCES 2023では参加登録をした一般来場者にも公開され、メイン会場であるLVCC(ラスベガスコンベンションセンター)から送迎のバス(片道約30分)も用意されるという。これは朗報だ。

 インディアナポリスにあるNPO法人で、エネルギーと輸送技術セクターの進歩に取り組んでいる「ESN(Energy System Network)」が主催するIACには米国内外の複数の大学や研究機関がチームを編成して参戦し、1対1の直接対決(head to head)で最高時速を競う。

 昨年はミラノ工科大学(イタリア)とアラバマ大学(アラバマ州)連合の「PoliMOVE」とミュンヘン工科大学(ドイツ)の「TUM Autonomous Motorsport」が決勝で対戦し、最終ラップで時速173マイル(時速約278.4キロメートル) を叩き出した「PoliMOVE」が僅差で優勝した。

(参考)「『超高速での直接対決』は自動運転技術の進歩に何をもたらすのか」(『JDIR』2022年1月27日)

 IACは単にテクノロジーオタクのための娯楽レースではない。ヒューマンセキュリティという文脈ではIACの開催により世界の叡智を集めて自動運転アルゴリズムを開発、さらに自動運転の限界スピードを極限(時速300キロメートル)まで上げ、商用サービスとしての自動運転技術の安全性を高めることを目的に開催されている。

 ちょっとわかりにくいかもしれないが、F1で開発された高度な燃費向上の技術や安全技術がやがて市販車にフィードバックされていくプロセスを考えれば納得がいくだろう。

 実際に主催者のESNは、IACで開発された自動運転アルゴリズムはチームで秘匿したりせず原則公開するとも表明している。ルミナー、シスコ、AWSなど自動運転の関連企業から大きな注目を浴び、短期間で1億2000万ドル(約132億円)もの寄付金を集めて、商業的には成功したと言われているIACだが、その根本にはやはり社会全体の発展への確かな目配りがあり、ヒューマンセキュリティに直結するサステナブルな発想を根底に持っていると言える。

CES 2022の前回レースの決勝でデットヒートを繰り広げる「PoliMOVE」(奥)と「TUM Autonomous Motorsport」(手前)。運転席に相当する部分には自動運転のSoC、カメラ、センサーなどが搭載されている(筆者撮影)

 ヒューマンセキュリティが明確なメッセージになるCES 2023。地球温暖化や自然災害、コロナ禍やウクライナ戦争による社会・経済の混乱の最中に、なぜあえてCESのような大規模リアルイベントを開催するのか?

 CESを長く「定点観測」している著者の視座から見ると、この世界的テックイベントの役割や意義がテクノロジードリブンからサステナビリティドリブンへと大きく変わりつつあることを実感せざるを得ないのだ。