CES 2023を貫くテーマは「ヒューマンセキュリティ」

 かつてCESと言えば、CES 2017でのアンダーアーマーのケヴィン・プランクCEO(当時)やCES 2018でのエヌビディアのジェンスン・ファンCEOに象徴されるように、事業成長の野心に燃えるカリスマ的な経営者が颯爽とラスベガスに乗り込んできては声高らかに魅力的なビジョンや事業構想をプレゼンテーションする、という印象が強かった。

 しかし、サステナビリティやSDGsが時代のアジェンダとなったCES 2020あたりからその様相は一変、最先端テクノロジーがいかに地球規模の社会課題の解決に貢献できるか、というテーマが、主催者であるCTAや基調講演に登壇する主要な企業トップの間で共有され始めるようになってきた。

 CES 2021(オンライン開催)とCES 2022に2年連続で基調講演に登壇したGMのメアリー・バーラ(交通事故・CO2排出・渋滞をゼロにするためにEVプラットフォーム開発や自動運転の実用化を推進)、CES 2022の基調講演に初登壇した医療機器メーカー、アボットのロバート・B・フォードCEO(患者への共感を前提にヘルステックで治療や予防の可能性を拡大)のプレゼンテーションがCESの新しいメッセージを浸透させる意味で大きなインパクトを残したことは記憶に新しい。

 そしてCES 2023ではこの流れを踏まえて「ヒューマンセキュリティ」がメッセージとして明確に打ち出されることになりそうだ。

 ヒューマンセキュリティは「人間の安全保障」と翻訳されるキーワードである。個々の人間の安寧を保障すべきであるという安全保障の考え方で、「国家の安全保障」という概念と相互依存、相互補完の関係にある。

 ヒューマンセキュリティには、要素として「食糧安全保障(フードセキュリティ)」「ヘルスケア」「個人の収入」「環境保護」「個人の安全」「コミュニティの安全保障」「政治的な自由」などが含まれる。

 CES 2023に向けての具体的な動きとしては、CES 2023が国連の支援するヒューマンセキュリティの団体・世界芸術科学アカデミー(World Academy of Art and Science:WAAS)とパートナーシップを結ぶことが2022年6月15日付のCTAのプレスリリースで発表された。

 世界芸術科学アカデミーとは1960年に設立された、国際的な非政府科学組織(NGO)であり、90カ国以上の800人を超える科学者、芸術家、思想家、政治的および社会的リーダーのグローバルネットワークである(本拠はカリフォルニア州のナパにある)。

 第2次世界大戦直後、人類が自滅する可能性を脅威に感じた多くの科学者や知識人(マンハッタン計画に関わり、原子爆弾の製造に大きな役割を果たしたアルバート・アインシュタイン、ロバート・オッペンハイマー、ジョゼフ・ロットプラットら)が人類の様々な危機に対処できる国際的な非政府組織設立のアイデアを探究し始めたことがその起源とされる。

(参考)世界芸術科学アカデミー(World Academy of Art and Science:WAAS)のウェブサイト