ヒューマンリスクを洗い出す4つの視点

 ヒューマンエラーリスクを洗い出すためにはエラーのタイプを知ることが重要である。エラーのタイプを知るための手段として「人の情報処理メカニズム」という見方を紹介する。

 人が行う日常活動はもちろんのこと業務も細かく見ると「記憶する」「認知する」「判断する」「行動する」という4つの働きに分けられ、この4つの働きを使って、人は外界からの情報を得て、しかるべき行為をしている 。

「認知する」:五感、主に見たり聞いたりして対象が何であるかを知り、その意味合いを認識する働き
「判断する」:認知した情報を含む各種情報から状況を理解し、次の行動を意思決定する働き
「行動する」:判断結果に基づき行動を起こす働き
「記憶する」:「覚える」「覚え続ける」「思い出す」という働き

裏を返せば、これらの働きが適切に機能しなかった状態がヒューマンエラーであるということになる。
たとえば、食事を患者様に配膳するために「(食事を運搬する)ワゴンに必要数の食事を準備する」という業務でヒューマンエラーを考えてみよう

「認知エラー」:(必要数揃っていないにも関わらず)食事の数が揃っていると見間違える
「判断エラー」:(食事が揃っていると思い込み)配膳前に食事の数を確認しなくてもよいと誤った判断をする
「行動エラー」:食事の数が揃っているかの確認を抜かす
「記憶エラー」:食事準備の途中で電話が掛かってきて業務が中断し、その後、いくつ食事を準備したかをすっかり忘れてしまう

このように考えていくと、業務内容さえ分かっていれば何か問題が起こっていなくてもヒューマンエラーリスクを洗い出すことが可能になる。

ヒューマンエラーリスクマップを作ろう

G社では実際に、以下のようにヒューマンエラーリスクマップを作成した。

 ヒューマンエラーリスクマップとは、縦軸・横軸に、「工程・業務を細分化した項目」「認知エラー、判断エラー、行動エラー、記憶エラーなどヒューマンエラーのタイプ」を置き、マトリクスの表にしたものである。工程・業務を細分化した項目ごとに、ヒューマンエラーのどのタイプが発生しそうかを洗い出していく。

  エラーリスクが洗い出せたら、「発生度(どの程度の頻度で発生しそうか)」「影響度(エラーが発生した場合の被害の大きさ)」「検出可能性(エラーを発見できる可能性がどの程度あるか)」という視点からリスクの大きさを評価し、改善対象の優先順位を付け、対策を実施する。

  G社では、一口に食事提供サービス業務といってもいろいろな工程がある。そこで、過去数年間で発生したヒューマンエラー起因のクレームを分析して、「食事の配膳準備、配膳」の工程が一番、クレームの発生件数が多いことから、この工程を手始めに改善検討を始めることにした。

  G社は、まだ「ヒューマンエラー対策プロジェクト」に取り組んでいる最中である。「食事の配膳準備、配膳」工程のヒューマンエラーリスクの洗い出し、改善が一通り終わり、次は「調理」「食事の予約受付」という順で改善を進めていこうとしている。ちなみに、「食事の配膳準備、配膳」工程では改善を実施してから現在まで4ヶ月、クレームだけでなく、社内の業務品質トラブル発生ゼロを継続している。 ヒューマンエラー対策は、なにか起こってから対策を打つ再発防止型ではいわゆる「モグラたたき的な」改善になりがちで、対策が後手に回ってしまうことが多い。しかし、人の業務に関しては少なくとも何をどんな手順で行っているかは分かるはずである。それさえ分かっていれば、今回紹介した視点でヒューマンエラーリスクを事前に洗い出し、何か問題が起こっていなくても対策を打つことが可能である。

 みなさまの会社や職場でも、ぜひ「ヒューマンエラーリスクマップ」作成に取り組んでいただきたい。

コンサルタント 大西弘倫(おおにし ひろみち)

生産コンサルティング事業本部
品質革新センター
チーフ・コンサルタント

安全・安心ものづくりのための製造品質向上や顧客から信頼されるサービスを提供できる業務品質向上、労働安全管理レベル向上をねらいとしたヒューマンエラー防止のテーマに取り組み、ヒューマンエラーに強い職場づくりを目指す未然防止型改善活動のコンサルティングを推進している。共著に『ヒューマンエラーの発生要因と削減・再発防止策』(技術情報協会)など。