サイボウズは、BtoB企業としていち早くオウンドメディア「サイボウズ式」を立ち上げた。同メディアで一貫したストーリーを発信し続けることで、実像的なブランドを築いた。10年にわたりブランド構築やマーケティングの変革に挑戦してきた、同社コーポレートブランディング部長の大槻幸夫氏は、機能や値段による差別化が難しい成熟市場において、オウンドメディアを使い「意味のある差別化」をしていくことの重要性を説く。
※本コンテンツは、2022年3月16日に開催されたJBpress主催「第4回 マーケティング&セールスイノベーションフォーラム」の特別講演Ⅱ「成熟市場を勝ち抜くブランドを生むオウンドメディア戦略 サイボウズの売上4倍、社員数10倍の成長の裏側」の内容を採録したものです。
サイボウズの成長の裏側にあったオウンドメディア
約10年間にわたりブランディングによるマーケティング変革に挑戦し、売り上げ4倍、社員数10倍と、成長を続けるサイボウズ。しかし、創業から8年ほどたった2005年ごろは、離職率は28%と高く、またマーケティングにおいても、大企業からの認知度が低いため、営業の場面では顧客の担当者に良さが伝わっても、経営者が知らないという理由で採用が見送られてしまう状況だった。
当初は、とにかく目立つことで認知度を上げようと、「ボウズマン」というアメコミ風ヒーローをつくったりもした。しかし、奇抜な施策は創業期は急激な認知と売上の拡大につながったが、時間が経ち市場の中心が先端層から一般層に変化するにつれ、そこから試用誘導へつなげる従来のプロモーションが思うように機能しなくなくなってしまった。サイボウズは、成長の踊り場を迎え、ビジネスが停滞していった。
この課題を解決するため、まず「働き方改革」に着手。さまざまな改革が成功し現在は離職率を5%以下に収めることに成功する。また、代表取締役社長の青野慶久氏の「新しいことにチャレンジしていこう」というの号令のもと、2012年5月、当時としては革新的な試みであったオウンドメディア「サイボウズ式」を立ち上げた。例えば、コンテンツの題材として選んだのは、急成長していたLINE株式会社のチームの裏側。LINEに、その様子を「『サイボウズ式』に取材してもらった」とSNSでつぶやいてもらったことで拡散し、「サイボウズ式」のヒット記事となった。
現在のサイボウズの主力サービスは、東証一部上場企業の4社に1社が利用する「kintone(キントーン)」というクラウド業務アプリケーションプラットフォーム事業だ。
「キントーンを使うことでチームワークが向上します。通常のエクセルなどリスト型のデータファイルをメールに添付してCCで共有するという方法では、最新のデータがどれか混乱したり、また企画データの利用は別にディスカッション用のアプリも開く必要があったり、使いづらく感じることも多いと思います。その点、キントーンは(下図のように)共有データとそれに対するディスカッションを同一画面で行うことができます。例えば、『サイボウズ式』のリアルな会議は週1回で、普段はキントーン上で、記事の公開予定管理やその記事ネタの編集会議を常にブレインストーミングしながら、そのノウハウをキントーン上に蓄積しています。社内の面白い試みのネタのショーケースとして、外部にも一部公開することで、外部からの取材依頼にもつなげています」