バズワードと揶揄されていたスマートシティだが、その市場はいよいよ「成長期」を迎えようとしている。NTTコミュニケーションズは2000年代より、ICTを活用した街づくりに取り組み、 ICTの強みを生かしながら、都市開発のナレッジを蓄積してきた。しかし、世界各地で街のスマート化が進む中で、さらなる活躍が期待される。市場の変遷や目指す世界感などについて、NTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部 スマートシティ推進室長の塚本広樹氏に語ってもらった。
SDGs、コロナ禍によって、街づくりにICTが不可欠に
スマートシティ市場がいよいよ本格的な「成長期」を迎えようとしている。その背景について、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部 スマートシティ推進室長の塚本広樹氏は、次のように語る。
「SDGsの要請に加えて、コロナ禍で人々の生活様式やワークスタイルが大きく変化したことにより、新しい街づくりにおいてICTの活用が不可欠になっているからです」。こういった環境変化に対応するべく、ICT投資の予算も従来に比べて大幅に拡大しているという。
ここで改めて、スマートシティ市場の変遷について振り返ってみる。2016年に内閣府の第5期科学技術基本計画において「Society 5.0」が提唱され、ICTの活用により高齢化や人口減少都市一極集中といった社会課題を解決しようとしたのが「形成期」である。ここでの主眼は、個別領域・業種のスマート化にとどまっていた。
その後、「スーパーシティ構想」が取りまとめられ、東京2020オリンピック・パラリンピックを前後して、民間複合型の不動産ビジネスが活況を呈した。これが「黎明期」である。ここでは領域・業種を横断した都市・街区一体での開発に主眼が置かれた。
そして、SDGsの要請が強まり、コロナ禍でニーズが多様化したことでトレンドは一変。5Gなどのテクノロジーの進展、ICTのビジネスへの浸透を受けて、まさに今「成長期」を駆け上がろうとしている。
スマートシティ市場のトレンドに合わせて、NTT Comの取り組みも大きな進化を遂げてきた。2000年代半ばまでは、ビルの中の弱電設備などインフラレイヤーのシステム構築が中心だったが、2000年代後半から「形成期」が始まった頃には、IP化によるICT設備のネットワーク統合に主軸を移してきた。
2019年、街づくりにおいてAI/IoT、クラウドなどのテクノロジーの利活用が着目される中で、スマートシティ推進室が設立され、現在は塚本氏が率いている。以来、テクノロジーを駆使し、エネルギーマネジメントや人流分析などの新たな価値を提供してきた。現在では、その流れをさらに加速化させ、デジタルツインコンピューティングを通じたビルや街区の維持管理を目指して、お客さまやパートナーとの共創を進めている。
「都市が抱える様々な社会課題に対してICT技術を活用した持続可能な街づくりを推進。集積・蓄積される多様な街のデータをもとに、安心安全で住みやすい都市の実現に貢献」
スマートシティ推進室のミッションにはこうあるが、中でも喫緊の社会課題とは何か。また、それを解決することで、どのような未来社会が待っているのか。
「1つ目は、やはりSDGsやカーボンニュートラルへの対応です。これはもはやグローバルな社会要請といえます。我々は、例えば空調・照明連動の仕組みにより効率的なエネルギー利用を促進し、『環境と人に優しい街づくり』に貢献しています」と塚本氏は語る。
2つ目は、最先端のテクノロジーを取り入れ、「人とロボットの協働」を図り、省人化を可能にすることで、人々の生活をより豊かにし、コロナ禍における非接触ニーズにも対応することだ。
そして3つ目が、「安心安全で利便性の高い空間」の創造である。顔認証技術を活用し、同じく非接触によって、街区内移動でのウイルス感染リスクを抑え、より快適な空間をつくるとしている。
「人にやさしい街づくりの実現に向けて、様々なデータ群を収集・蓄積するSmart Data Platform for Cityを提供し、スマートシティにおけるデータの利活用をご支援しています」(塚本氏)。
街づくりにおけるデータ利活用の事例
街づくりにおける、データ利活用の具体例をいくつか紹介しよう。NTT Comは三井不動産と共同で、名古屋市の久屋大通公園において「安心安全な街づくり」の実現に向けた実証実験を行った。同公園の敷地内に防犯カメラを設置し、映像データをリアルタイムで解析することにより、不審者や危険行為の検知、迷子やお年寄りのサポートなど、誰もが安心して訪れることができる公園の実現に寄与している。
また、名古屋市中区の大須商店街をフィールドとして、新たな賑わいの創出に向けたリアルタイムレコメンドを行うサービスである「FUN COMPASS®」の実証実験を行った。利用者の来街目的や時間、場所、天気などのその人が置かれているシーンや状況を捉え、利用者の嗜好性に沿ったおすすめスポットをレコメンドするとともに、店舗からのクーポンやお知らせ情報発信を組み合わせることで、来街者の回遊を促した。実証実験の結果を受けて、大須商店街連盟様に2021年春から商用導入頂いている。
「FUN COMPASS®」は、沖縄で開催された「ResorTech EXPO AWARD 2021」において、イノベーション部門でグランプリも受賞している。今後は全国各地への展開を図っていくほか、より広域な周遊に繋げる複数の交通手段を加味した経路検索や、レコメンドされた旅スポットを自由に組み合わせた旅プラン作成等、各種機能追加を含めたバージョンアップも進行しているという。
産官学との連携
スマートシティの実現には、産官学との連携や、分野・業種を横断したデータの連携が必須となる。
NTT Comは、東大グリーンICTプロジェクトとともに、建物空間のデジタルツイン構築技術の標準化に向け、リアル空間のロボットやビル設備システムなどをデジタル空間からリアルタイム制御する基礎的なアプリケーションを開発しました。
東京・田町に開設した共創環境「CROSS LAB for Smart City」において、東京大学の学生も含め、多くのパートナー企業と共に共同実験を進めている。
産官学連携の狙いは2つあると塚本氏は語る。「1つは、民間企業においては短期間での収益化が求められがちですが、産官学連携においては中長期の視点でエッジの効いた取り組みも可能になることです。もう1つは、スマートシティの実現においては、法制度などのレギュレーションを守る必要がありますが、例えば、大学教授に官と民をつなぐパイプ役を担っていただくことで、スムーズなプロジェクト推進が期待できることです」。
民間企業との連携にも最先端の事例がある。
海外へのスマートシティ輸出も視野に
スマートシティ市場におけるNTT Comの優位性について、塚本氏は3つ挙げる。「最も大きな強みは、黎明期から関与してきたことで、ビル・街区の進化に応じたICTのスキルとナレッジを蓄積してきたこと。2つ目は、エッジにある様々な端末とデータプラットフォームをつなぐネットワークインフラを持っていること。そして3つ目が、マルチベンダーとして、お客さまの多様なニーズに応えられることです」。
オフィスビル、商業ビルのICT化からスタートしたNTT Comスマートシティ推進室の取り組みは、街区、沿線の都市開発へと広がりを見せてきたが、さらに今後は海外でのスマートシティの展開も視野に入れている。
「もっとも、そこに至るまでには10年、20年以上かかるかもしれませんが、ここでも産官学のパートナリングを重視しながら、日本で培ったスキルとナレッジをグローバルに展開していきたいと考えています」と塚本氏は意気込みを示す。
ICTの高度利用によるスマートシティの取り組みは、実証実験の段階を終えて、実際の案件、事業計画として目にする機会が、今後増えるだろうと塚本氏は予想する。バズワードから、まさに「成長期」に入ろうとするスマートシティ市場で、NTT Comがどのような存在感を放つのか、大いに注目される。
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