多様なサービスとの組み合わせ
中国当局はかねてから、北京冬季五輪の場を活用し、デジタル人民元に関連するさまざまなサービスをあわせて実験する意向を表明していました。2021年7月に中国人民銀行が公表した報告書(“Progress of Research & Development of E-CNY in China”)では、デジタル人民元の試験的流通にあわせて、会場には無人のスーパーマーケットや販売カートを設置する計画を明らかにしていました。また、オリンピックのユニフォームやグローブ、バッジなどの中にデジタル人民元の支払機能を組み込むことで、商品を手に取って店を出れば自動的に支払いも完了するといった機能を実験する意向を表明していました。
このように、都市の既存のインフラを活用するのとは異なり、五輪は、新しいインフラをゼロから作って実験ができる、貴重な機会となるわけです。
北京冬季五輪におけるデジタル人民元の利用体験については、今後もさまざまな報道がなされると思います。この中で、「ハイテク」「便利」といった表面的な報道だけでなく、その課題や民間サービスとの比較も踏まえた短所なども含め、冷静な分析や評価がきちんと行われるかどうかもあわせて、注目していきたいと思います。
◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。
◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。