脱炭素への取り組みを出店基準にする海外ブランドも
経済産業省が2020年12月に公表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」はエネルギーの供給側・需要側の双方の課題を整理するとともに、産業構造の転換や技術革新などによって脱炭素社会を実現するための針路を示した。成長戦略では、これまで経済成長の制約やコストとされてきた温暖化への対応を「経済成長の機会」と捉え、産業構造や社会経済に変革をもたらすという前向きなメッセージが込められている。
「脱炭素への取り組みを施設への出店基準にする海外ブランドも出てきた。テナントに選んでもらうため、当面はコスト上昇分をテナントに転嫁しない」――ある商業デベロッパー担当者は話す。再エネ拡大は加速しそうだが、非化石証書の購入料金も含め、再エネはコストが高く、この負担をどうするかなど課題もある。
経済産業省の資料などによると、日本における太陽光発電のコストは17年に1キロワット時当たり17.7円の一方、世界の平均コストは9.1円。太陽光発電の価格は下がっているが、本格的な浸透は道半ばだ。コスト負担の重い再生エネの導入は収益圧迫要因となる。
日本の小売り各社の動きは他の業界に比べて動きが鈍かったが、資源エネルギー庁の統計によると、産業関連のエネルギー消費量(18年度)に占める小売りなど第3次産業の割合は製造業(約70%)に次ぐ約26%に上る。工場で大量の電力を使う製造業がいち早く省エネ技術を導入してきたのに対し、小売り各社は品揃えやサービスの競争力を優先してきたためだ。
ただ、消費の分野では近年、地球環境や人権などに配慮したブランドや商品を選別する「エシカル消費」が急速に広がり、ステークホルダーからの要請も強まっている。「脱炭素の実現に向け、初期コストは高くとも中長期的な視野で投資する必要がある」(大手百貨店)という声もあり、各社はSDGsに対応した経営を強く求められている。