人の成長とやりがいが事業の成長につながる
――お二人は、そもそもどんな思いや目的を持って働き方改革や働きやすい環境作りを進めているのですか。
武田 私自身は3年前にカルビーに転職してきたのですが、最初に掲げたのが「全員活躍」です。一人ひとりがそれぞれ持ち味や強みを持っているはずなので、それを発揮して働きましょう。いろんな活躍の仕方があってもいい、という考え方で、最初の年にタウンホールミーティングで各地を回って話をさせていただきました。
すると2年も経たないうちにコロナ禍になり、リモートワークに一気に切り替えたのですが、このときに社内に訴えたのが、「圧倒的当事者意識」です。リモートワークになると、家の中まで人事が見に行くわけにはいきませんから、自分が成果を出せる環境や働き方というのは、一人ひとりが当事者意識を持って考えてほしい。大まかなガイドラインは出しますが、手取り足取り細かいことは言いません、とお伝えしたのです。
最初はメンバーの姿が見えないことから、管理者層から不安や不満の声もあがりました。そこで社員の皆さんが出社しているときに、どういうマネジメントをしていたのかを尋ねると、なんとなく姿が見えていると安心するレベルの話が殆どだったので、彼らには、成果から逆算するマネジメントをお願いしました。人間というのは任されると張り切るものですし、裁量が多いとその分やる気が向上するのも明らかだったので、役職者の方たちには「性善説マネジメント」という言葉を使って、社内にそれが定着するようにしていきました。
山本 全員活躍や圧倒的当事者、性善説マネジメントなどワーディングがわかりやすいですし、トップのエンドースメント(支援)を得られたことは大きいですね。マネジメント層が同じ言葉を使い始めると、一気に広がっていくのでしょうね。
武田 そうですね、そういう意味では「Calbee New Workstyle」が始まるときに、社長の伊藤(秀二氏)が、「うまくいくかわからないけれど、転びながらでもいいからやってみよう」と言ってくれたことは、本当にありがたかったです。
山本 私たちの業界はものすごく変化が激しい業界です。競争力の源泉は技術なのですが、ベースとなるのはやっぱり「人」です。「人の成長がすべて。人の成長が事業の成長につながっていく」というのが私の信念で、その成長をサポートするために、働きやすい環境作りをしたり、活躍機会が増える後押しをするのが人事の重要な役割だと考えています。ですからワークスタイル変革もリモートワークネイティブも、社員一人ひとりの成長とやりがいを後押しすることで、最終的に事業の成長につながっていくという思いでやってきました。
もう1つ、これはやってみて確信を得たことですが、実はワークスタイル変革というのはデジタル・トランスフォーメーション(DX)、データドリブン経営につながる第一歩だということです。リモートワークを進めようと思うと、プロセスを電子化・標準化して自動化することで効率化を図り、仕事のやり方を変えていく必要があります。また、デジタル化が進展しデータがたまっていくと、これを利用して現状を把握し、分析結果に基づいて意思決定をすることも可能になります。
DXをどう進めていくべきか検討する際に、コンセプトから入る経営者も多いと思いますが、「働き方を見直す」ということが、実はDXを進めることにつながるということを、ぜひ知っていただきたいです。
多様な知が交錯する場をいかに作れるか
――業務効率の向上の一方で、イノベーションを創出する組織作りや人財育成についてはどのようにお考えですか。具体的な施策と合わせてお聞かせください。
武田 コロナ禍になって始まったオンラインのワークショップは、今ではスタッフがついて、定期的な勉強会になっています。「Calbee Learning Cafe」という名称で月2回、社内外から講師を迎えて、講演やワークショップを行っています。
「カルビっとワーカー」という、いわゆるギグワーカーの採用制度も始めていて、現在はマーケティング部門に2名入ってもらっています。「そんな会社から来ていただいてもいいんですか?」というような優秀な方々が「月に〇時間だけだったらいいですよ」という形でお手伝いしてくださり、受け入れをしている部長さんたちも毎回刺激をもらっているようで、ミーティングも「すごくワクワクする」とコメントをいただいています。
他にも、学生さんや一次生産者さんなど、社外でコラボレーションできそうなイベントやプログラムがあれば、積極的に社員を送り込むようにしています。リモート環境の充実によって、例えば、九州の社員が東京の高校の授業に参加してディスカッションすることも可能ですから、人事としてはとにかくそういう場をたくさん作るようにしています。
ただでさえリモートで家に引きこもりがちなので、できるだけ社内と社外の境目をなくすことを意識して色々な仕掛けを作っています。「ここからがカルビー」という境界線をなくして、社内外の人たちが自由に出入りすることで、刺激を受けたり、気づきを得ることができればと考えています。
山本 うらやましいですね。当社にも、新規事業ビジネスコンテストがあります。世代や組織の壁を越え、有志の仲間で集まって、新規事業を企画提案し、イノベーションを創出する場になっていますが、一方で、通常業務とどう両立させるかという課題があるのも事実です。
イノベーションはやはり、多様な知が交錯することで生まれると思うので、そういう場をいかに作ることができるか、人事には求められているのでしょう。直近では、当社もオフィスのリニューアルを検討しています。出社率は3割を前提に、首都圏に3つあるビルを2つのビルに集約し、3つのC(Change、Creation、Collaboration)を具現化する場と定義して設計しています。
――社員が生き生きと働き、成果を上げられる環境作りを進めたいと考えている経営者に向けて、メッセージをお願いします。
武田 当社の場合は、メンバーと役職者の関係もフラットなのですが、会社によっては、人事部と経営の距離感が遠いところもあると思います。会社を変えていくときに、どうしても戦略の部分が先行しがちですが、それは組織や人があってこそです。ですから、大きな戦略、会社の方向性を決めるテーブルに、必ず人事をつけてほしいというのが1つです。
もう1つは、その時に人事をうまく使ってほしいということです。経営判断に応えられる人事の人たちはまだまだ少ないかもしれませんが、それを育てていくのも経営者の仕事だと思います。時には厳しいアサインメントもしていただきながら、会社を変えていく際に、人事にこういうことを期待しているのだということを、明確にメッセージを出していただけると、日本中の人事の底力が発揮されるのではないでしょうか。
山本 繰り返しになりますが、社員の皆さんのやりがいや成長が、事業の成長につながることを信じて、働きやすい環境作りを進めていただきたいですね。特にお伝えしたい点は、ワークスタイル変革はDXにつながるということです。ワークスタイル変革を進めることで、データが蓄積されます。それらを可視化することで、生産性の向上やイノベーションの創出などについてデータで議論することができ、人事としても経営に対して、より深く参画できるようになると考えます。DXの第一歩を踏み出すためにも、ぜひ、ワークスタイル変革に取り組んでいただきたいと思います。
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