まずは当事者の視点に立ち、困りごとやニーズを理解

 情報アクセシビリティへの対応は、高齢者や障がい者に限らず、自社の製品・サービスを利用する全ての利用者にとって有益となる。これは、企業にとって企業価値や競争力の向上につながり、また行政にとっては住民の利便性向上につながる。

 多くの企業や行政機関は、SDGsの達成に向けた取り組みを行っており、企業が社会的責任を果たすことが重要視される中で、アクセシビリティへの対応は今後、ますます重要となる。

 では、情報アクセシビリティへの対応に向けて、どのような取り組みが必要だろうか。

 まず、最も重要なことはその取り組みの重要性や必要性を社員が認知することである。そのためには当事者の視点に立ち、困りごとやニーズを理解することがポイントとなる。自社が開発・調達するICT機器・サービスの利用者のアクセシビリティに係るニーズを理解することは、情報アクセシビリティへの取り組みがどのような人の利便性向上に寄与するのか、具体的な認知につながる。

 ニーズの理解にあたっては例えば、最も困難を感じる可能性がある対象者として障がい者の困りごとを理解することである。視覚障がい者が使いやすいウェブサイトは、加齢により視力低下が進んでいる高齢者の方にも使いやすいと言える。

 次に、自社(行政)としての取り組み方針や体制の構築である。情報アクセシビリティへの取り組みは、製品・サービスが完成してから付加的に機能を搭載しようとすると、大規模な改修や莫大な追加費用を要するケースもある。そのため、構想・設計段階から情報アクセシビリティを考慮しておくことが非常に重要となる。欧米では製品・サービスを開発するライフサイクルの一つとして既に組み込んでいる企業も多く、日本でも幾つかの先進的な企業では開発プロセス全般にわたって取り組んでいるが、これにより情報アクセシビリティへの対応コストを下げることが可能となる。

 なお、情報アクセシビリティへの取り組みにあたっては、アクセシビリティに係る専門的な知見が必要となる。社内でこれらの知見を蓄積するための取り組みを行うとともに、障がい当事者や外部の専門機関・業者等の知見を借りながら対応を進めることが望ましい。

情報アクセシビリティ対応の進め方(出所)筆者作成
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 情報アクセシビリティへの取り組みは、一見するとハードルが高いように感じるが、その必要性や重要性は上述の通り、大きく、企業や行政が必ず取り組まねばならないものである。人々の生活においてデジタルツールが欠かせないものとなっている中で、ツールやそこに搭載されるウェブコンテンツ、ウェブシステム等が情報アクセシビリティに配慮されることで、「誰一人取り残さない」社会が実現することを期待したい。