BaaS発展の課題
もちろん、BaaSを今後発展させていく上では、いくつかのハードルもあります。これらのハードルは、銀行サービスが既に普及している先進国の方が、むしろ高いかもしれません。
まず、規制の問題があります。多くの先進国では、産業の中で銀行が大きな力を占めていた歴史もあり、銀行サービスと非銀行サービスとの間に、かなり高い垣根が設けられています。したがって、デジタル技術革新のメリットを享受していくためには、消費者保護や競争条件の公平性に配慮しつつ、業際規制の見直しを行っていく必要があります。
また、最近のGoogleによる送金アプリ“Pring”の株式取得にみられるように、銀行の外側では、さまざまな連携の動きが活発化しています。この中で、銀行の業務規制のみが過度に制約的であれば、消費者の利便性向上の制約となることはもちろん、内外、あるいは業態間の競争上の問題にも結び付くことになります。このような情勢変化の下、日本においても、2017年の銀行法改正にみられるように、銀行の業務規制の見直しが進められています。
また、とりわけ先進国では、銀行による既存の投資やインフラがビジネス上の制約となる可能性もあります。既にかなりのお金をかけて自前の店舗網やATM網を整備してきた銀行にとって、アプリなどを主力ツールとして金融分野に参入するIT企業は脅威でもあるわけです。彼らに対し銀行APIを公開するとなると、これまでの自らの投資をサンクコスト化してしまうリスクも頭をよぎるでしょう。このことが、APIのオープン化を躊躇させるかもしれません。
さらに、銀行・非銀行という垣根を超えた連携を進めていく上では、データセキュリティやプライバシーの確保も一段と大きな問題となります。例えば、eコマースやSNSの利用履歴データがユーザーの知らない間に広範に流用され、金融サービスへのアクセスが突然断たれるような事態は避ける必要があります。
もっとも、デジタル技術革新の下で、銀行サービスと非銀行サービスの連携の余地が広がることは自然な流れです。こうした中、消費者の利便性を高めていくという観点から、日本においても着実な取り組みが進むことを期待したいと思います。
◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。
◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。