今や世界的な2大バズワードとなっている「デジタル化」と「脱炭素」。脱炭素を進めるには膨大なデータ処理が必要となり、そのためにデジタル技術は欠かせない。元日銀局長の山岡浩巳氏が両者の関わりと先端動向を解説する。連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第44回。
今年上半期の世界情勢において特筆すべきこととしては、2050年のカーボンニュートラルに向けた議論の進展が挙げられます。今や「デジタル化」と「脱炭素化」は、世界の2大流行語です。そして、この2つの関係についても関心が高まっています。
分散型技術と電力消費
今年、両者の関係を巡る問題が目を引く形で噴出したのが、テスラ社CEOのツイッターを契機とする、ビットコインの電力消費の問題です。すなわち、今や中規模国一国と同程度の電力を消費しているビットコインを電気自動車を作る会社が受け入れることで、結果的に電力消費を増やしても良いのかという議論です。
金や貝殻、穀物など、古くからマネーとして用いられてきたものの信認は、それを掘り出したり、見つけたり、生産するのに必要な労働を基にしてきました。「金は掘り出すのが大変なので、それだけ価値がある」という発想です。ビットコインの考え方もこれに類似しており、「マイニング」と呼ばれる計算競争を信認の源としています。計算を行うコンピュータが電気で動く以上、これは「電気をどれだけ使ったか」に近くなります。
このようなビットコインの電力消費は、かねてから指摘されていた問題です。これは、デジタルの問題、あるいはブロックチェーンや分散型台帳技術の問題と言うよりも、ビットコインの設計の問題、すなわち、コンピュータの能力向上に伴って計算負荷が自動的に増えるという仕組みの問題が大きいように思います。
信認が何らかの労働に基づいて構築される以上、エネルギーは必ず消費されます。金を掘り出すにもエネルギーを使いますし、大規模電算センターを稼動させるにも電気は必要です。これらと比べ、ブロックチェーンや分散型台帳技術を用いるインフラが、一般論として勝るとも劣るとも言えません。
また、例えばNFT(Non-Fungible Token 第28回、第29回参照)のオークションについても、デジタル技術を使うことによるエネルギー消費と、多くの人がオークション会場に集まって競りを行う場合のエネルギー消費を比べないと、正確な評価は困難です。結局、何が地球に優しいかは、設計次第の面が非常に大きいのです。
この中で、ブロックチェーンや分散型台帳技術についても、これらを脱炭素と整合的なものにしていく取り組みが行われています。例えば、ブロックチェーンや分散型台帳技術をより省エネ型にする取り組みとして、最近登場した暗号資産 “Chia” は、「計算競争」ではなく、コンピュータの空きディスクスぺ―スを使った “Proof of Space” と呼ばれる方法により、電力消費を抑えながら信認を確立しようとしています。