もちろんこれは、「デジタル化が進展しているので脱炭素化もたやすい」ということではありません。デジタル技術は、脱炭素化を実現する上での必要条件の一つに過ぎません。実際、脱炭素化の鍵を握る中小企業の取り組みの実態や効果などを正確に把握することは、なお簡単ではありません。この中で、情報開示の拡充やプラットフォームの整備、分析手法の向上などに取り組んでいく必要があります。

デジタルと脱炭素型ライフスタイル

 脱炭素化を進める上では、デジタル技術の活用によって実務や慣行などを見直すことで、温室効果ガスの排出を減らしていくことも重要となります。

 例えば、デジタル技術によってリモートワークが広がれば、通勤ラッシュのピークを低くしたり、人々の通勤距離を平均的に減少させることで、温室効果ガスの排出を減らす効果が期待できます。同様に、ペーパーワークが減れば、これによる効果も期待できます。加えて、AIなどの活用により物流を効率化し、モノの移動距離や重複配送の頻度を減らせれば、これも脱炭素化に寄与することになるでしょう。

 一方、デジタル化を進めると言いながら、マニュアル事務を見直さず、そのまま残してしまったのでは、脱炭素化の効果は見込みにくく、むしろ、事務を両建てで回さなければいけない分、エネルギー消費が増えてしまうかもしれません。

 結局、「デジタル化の効果がきちんと上がるように、業務の進め方やライフスタイルを見直すこと」が、脱炭素化にも貢献するはずです。日本はしばしば「デジタル化後進国」と言われますが、逆に言えば、それだけ脱炭素化を進める余地も大きいと言えるかもしれません。一方、「見掛け倒しのデジタル化」は、おそらく脱炭素化の役にも立たないでしょう。

◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。