◆デリバリー面の課題
デリバリー面については、やはり在庫管理や納期管理の難しさが挙げられる。製造部門においては生産計画通りに製造することができない企業も見受けられる。
その原因として、調達部品の遅れ、生産計画のまずさ、製造現場のトラブルなどが挙げられるが、これらの問題が同時多発的に発生して混乱している現場に出会うことも珍しくない。
また、計画的な生産ができないため、製品在庫も過剰に持たざるを得ない、逆に注文が減らされてしまうなど工場経営に大きな影響を与えている現場があることも事実である。
もしかしたらタイ人の気質が影響しているのかもしれないが、納期を守ることへの意識が希薄なケースもある。納期を守るためには日々の計画を完遂することが非常に重要だが、<やりじまい>ができている企業は少なく、終了時間がくれば作業終了となってしまっている現場が多いこともタイの製造現場の実態のように思う。
◆製造拠点のインフラ面に関する課題
続いて、製造現場のインフラである設備の問題である。製造拠点の構築では、日本で使っていた設備や日本と同様の設備を現地に持ち込むことが多い。そのような設備を立ち上げる際に、日本人が大挙して出張し、据え付け、量産試作、初動確認までを行うというのがよくある実態だ。
しかし、立ち上げに関わった人がいなくなった後、現地にメンテナンスのスキルを保有した人材がいないという問題がよく見受けられる。トラブルがあるたびに日本人が出張して対応し、費用発生やトラブル復旧までの時間という面で大きなロスを生み出してしまう。
また、極端な例になると、既に日本の拠点で外注化・派遣化などが進んでいて、日本の工場にも設備の固有スキルがなくなっているということも、まれに発生している事実である。次に述べる人材育成とも関係するが、製造拠点の安定運営のためには早期に解決すべき課題だといえる。
◆人材育成に関する課題
最後に人材育成について。優秀な現地人を採用できない、採用してもすぐに辞めてしまうなど、人が育たないという問題がある。
タイにおいては、失業率も非常に低く、単純に人が集まりにくくなっているため、優秀な人の給料は上昇し、採用するための費用が高くなっているのが実態である。また、会社に対するロイヤリティは低いため、この会社にいることが自分のキャリアアップにつながる、給料が増えるなど直接的に欲求を満たす対策をしなければ、離職率の低下も避けられない。