写真:Paylessimages/イメージマート

経営層に問われている「選択と集中」

 社会の大きな変革期を迎え、DXをはじめとする変革プロジェクトのニーズが大きく高まる一方で、プロジェクトを実行するためのリソース、特に人的リソースが質、量ともに逼迫している状況にある。

 人的リソースに関しては、ある程度、パートナー企業の外部リソースで補完できるところもあるが、DXプロジェクトでは社員がリーダーシップをとってイニシアチブを発揮することが求められる。つまり、DXプロジェクトをリードできる社員の工数以上のことをやろうとすると、プロジェクトのQCDの悪化、つまり、Qualityは品質低下、Costでは予算超過、Deliveryでもスケジュール遅延を招くことになる。その結果、動き出したプロジェクトの実態に合わせて達成目標の下方修正が行われる場合が多くなる。DXに大規模な投資を行っている企業で、プロジェクトが総じてうまくいかない、期待に沿わない状態に陥っているのは、こうしたパターンが多い。

 また、「どれも重要なので外せない」という話もよく耳にするが、感覚的に経営層は「選択と集中」を行っている。全部やろうとして、どれも中途半端になるくらいであれば、やることを半分に減らして、その分のリソース(ヒト、カネ)を残ったものに集中して密度を倍にする方が、得られるリターンが大きくなることは理解しているのである。

 しかしながら、「需給バランスが可視化されていない状態」において、旗振りをしている経営層が成長や変革のために、必要なことをやらなくてもいいとは言えない。また、案件の入れ替えをやろうとして、一度GOサインを出したプロジェクトを途中でやめさせることについても、根拠がなく行うことは難しい。

 そのため、経営層がプロジェクトの優先順位付けを行い、変化に合わせて見直しを行えるようにするためには2つのコントロールのための可視化の仕組みが求められる。

ニーズを可視化するプロジェクトポートフォリオマネジメント

 一口にプロジェクトと言っても、「先行投資」的な短期的なリターンを求めないプロジェクトから、当たり外れはあるが当たれば大きい「試行錯誤」の段階、あるいは「当たり」を積極的に拡大していくものなど、全てを同じ観点で評価し、優先順位付けすることは難しい。そのため、幾つかのグループに分けて、各グループのばらつき(配分)の最適化と、グループ内の優先順位をつけることで経営層が意思決定を行うことを支援するツールがプロジェクトポートフォリオである。

 プロジェクトポートフォリオは、それだけで半自動的に投資の意思決定が行われるものではなく、あくまでも経営層が戦略的な意思決定を行うにあたって、その判断の基本情報を提供するものであり、最終的にはポートフォリオには表されない知見や経験によって判断することになる。また、ポートフォリオの軸や指標は企業の戦略や価値観などによって変わる。図はその一例である。

 ポートフォリオにプロジェクトをプロットするにあたって、正確に予測しにくいグループ(前例のない事業立ち上げなど)ほど、潜在的価値やプロジェクトの進め方の合理性、プロジェクトリスクなどが優先度の評価基準となり、正確に予測しやすいグループ(業務改善など)ほど、ROI(投資対効果)、NPV(正味現在価値)など費用対効果の定量指標が優先度の評価基準となる。なお、ポートフォリオを過度に精緻化したり、指標の正確性を求めたりすると、ポートフォリオの作成とアップデートに過大な工数がかかり、運用が形骸化する。そのため、意思決定の「支援」ツールとして最低限機能するレベルにとどめることが望ましい。

リソースを可視化するリソースマネジメント

 ほとんどの企業では、予算に関しては必要最低限の管理ができている。逆に、できていないのが、現業とプロジェクトの兼務、複数プロジェクトの兼務、または、組織をまたがるプロジェクトアサインに関する要員リソースの稼働管理である。前回解説したように、兼務者の過負荷や、工数の分散のし過ぎなどによって、プロジェクトを成功させるために必要十分な工数を投入することができず、良い結果を出せていないことが多い。

 図5は、ある企業の月間稼働率の管理状況を示したものだが、現業の稼働率+プロジェクトの稼働率(複数プロジェクトの場合は合算)を将来予測と前月実績でモニタリングし、各人の稼働率は1.0(100%)に収まるようにした。ピーク時でも1.2(120%)を超えないよう、現業部門とプロジェクトとの調整を行った。一般的にプロジェクトのような変動要素が大きい非定形業務では見積もりよりも実稼働が大きくなる傾向がある。そのため、稼働率1.0でも残業が発生することが多く、稼働率のターゲットを通常時で1.0、ピーク時では1.2に置いたのである。

「過負荷の状態では、クリエイティビティが低下して、変革プロジェクトの成果を出すことができない」という基本認識のもと、過負荷状態の要員については、他の要員と稼働調整を行う。もし他の要員では代替できない場合は、プロジェクトの目標レベルを下げたり、プロジェクトの期間を伸ばしたりする。それでも調整がつかない場合は、プロジェクト自体を先送りするというマネジメントを行った。

 もし経営層が「努力や労力」ではなく、本当の意味での「ビジネス成果」を重視することを徹底すれば、要員リソースが足りなくても、追加プロジェクトを次々と要求することはなくなる。経営層がそういう方針を明示し、実際に行動で示すことによって、要員リソース不足でもプロジェクトを強行して、工数と時間を無駄にすることはなくなるのである。

ある企業におけるプロジェクトメンバーのリソースマネジメント

経営層のもとでDXプロジェクトを支援する組織(EPMO)が必要

 プロジェクトポートフォリオマネジメントやリソースマネジメントは、経営層がプロジェクトの成功率を高め、全プロジェクトから得られる成果を最大化するための有効な手段である。これらを継続的に運用していくためには、それなりの工数が必要であり、経営層の直下で横断的なプロジェクトのマネジメントを支援する組織=EPMO(Enterprise Project Management Office、全社PMO)が必要となる。EPMOは欧米では一般的になりつつあるが、日本企業で設置している企業はまだ少ない。さらに、ほとんどがプロジェクト横断での進捗やリスクの可視化にとどまっており、プロジェクトポートフォリオマネジメントやリソースマネジメントを行っていない。

 DXプロジェクトが思うように成果を出せないと悩まれている企業では、プロジェクトポートフォリオマネジメントやリソースマネジメント、それを運用するEPMOの設置を検討されることをお勧めしたい。

株式会社マネジメントソリューションズ MC事業部 エグゼクティブディレクター 和田智之氏