DXプロジェクト開始までの実態

 では、DXプロジェクトではどうであろうか。経営層や事業部門からの「とにかく急いでやれ」という圧力が強く、①~⑤の全てにおいて必要十分な手を打たないまま、プロジェクトをスタートさせていることが多いのではないだろうか。

  表層的に見ると、プロジェクト「開始後」におけるプロジェクトチームの進捗遅れ、部門間の認識のズレ、パートナーの能力不足など、プロジェクト推進の過程でトラブルや失敗を引き起こしている。しかし、プロジェクト「開始前」において、そもそも、そのプロジェクトが成功の見込みが高いものであったのかどうかということについて、メスを入れられることはまずない。

 そして、実際のところはどうかといえば、①のプロジェクトの目的/ゴールがあいまいなまま、②当該テーマの特性や類似ケースの把握も不十分で、③の“こうすれば成功する”というタスクの分解と実行計画について十分に知恵を絞らないままで中途半端につくってしまっていることが多い。①の目的/目標のあいまいさや、②の情報収集不足と主観的な思い込み、③の勝算の立たないまま場の雰囲気や精神論で意思決定されることは、令和になっても「失敗の本質-日本軍の組織論的研究」で指摘されているものとほぼ同様のことが起きている。

 なお、③のタスク分解は、プロジェクトの細かい作業計画であるWBS(Work Breakdown Structure)ではなく、もっと大まかな「何と何を、どういう順番でやれば成功するのか」という論理フローのレベルである。