米国では既に、米ドル建て資産を裏付けとする“USDC”などの暗号資産も発行されており、今回公表されたスキームを前提とすれば、当局として米ドル建てディエムの発行を強く止めるロジックは見出しにくくなっているように思えますし、それがディエム協会の方針変更の理由でもあるのでしょう。

 もっとも、フェイスブックの20億人を超えるユーザーの存在は、既存の銀行にとっては引き続き脅威です。したがって今後は、裏付け資産や規制監督の問題に代わり、ディエムの決済ネットワークとしての安定性やセキュリティ、マネーロンダリング対策などが、議論の中心となっていくものと予想されます。

 なお、ディエム協会は「仮に中央銀行デジタル通貨が発行されることになれば、それと連携していくことも展望する」と述べています。アジアでは中国がデジタル人民元の実証実験を急ピッチで進める中、フェイスブックが主導するディエム協会は、結果的にはスイスから米国に移り、当面は米ドル建てのデジタル決済インフラ構築に取り組む形となったことで、この分野でのイノベーション競争が加速する形になったことには、注目しておくべきだと思います。

◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。