その一方で、いくつかの重要な方針変更も行ってきました。
まず、2020年4月、米ドルなど単独通貨建ての安全資産を100%裏付けとするリブラも発行していくとの路線変更を打ち出しました。これは、リブラが当初掲げていた「グローバル」の旗を実質的に後退させる大きな変更といえます。そうなると、米国当局の目から見て、「米ドル建てリブラ」は、他の米ドル建てのデジタル決済手段、例えばPayPalやVenmoなどに、かなり近づくことになります。もちろん、「複数通貨建てリブラの発行」の選択肢を無くしたわけではありませんが、事実上、米ドル建てのリブラがあるならば、複数通貨建てのリブラへの需要はかなり限定的となるでしょう。
また、同年12月、リブラは「ディエム」へと名称も変更することを発行しました。もともと「リブラ」は「天秤」を表すローマ帝国の通貨単位であり、名称自体が「グローバルなデジタル通貨にしていく」というフェイスブックの強い意欲を示すものでした。この名称の変更は、「グローバル」の旗を後退させる象徴的な出来事でした。
ディエム協会、拠点を米国へ
そして、本年の5月12日、ディエムの発行母体となる予定のディエム協会(旧名称:リブラ協会)は、拠点をスイスから米国に移すことを公表しました。ディエム協会はその理由について、戦略上まず米国を重視するからと述べていますが、これは事実上、ディエム協会が米国当局の規制監督を受けるとの意向を表明していることになり、米国当局にとっては、さらに懸念材料が減ったことになります。
さらに、ディエム協会傘下の「ディエムネットワークUS」は、1988年に設立された米国カリフォルニアの新興銀行である「シルバーゲート銀行」と提携することを発表し、同銀行が「米ドル建てディエム」の発行主体となる予定だとアナウンスしました。シルバーゲート銀行は、米ドル建てディエムの裏付け資産(米国の短期国債など)を一元的に管理する役割を担うことが想定されています。シルバーゲート銀行は連邦準備制度に加盟するカリフォルニアの州法銀行ですので、ディエムにも事実上、米国の銀行規制が及ぶことになるわけです。