SDGs目標を決めるプロセスはマテリアリティ特定プロセスそのもの

 では具体的に目標をどう設定するか。これは企業のマテリアリティ(重要課題)を特定するプロセスそのものである。

 マテリアリティ(重要課題)という用語はサステナビリティ報告書の国際ガイドラインをつくっているGRIが、2006年版のガイドラン(G3)で導入し、その後、2013年版(G4)でさらに強調した言葉であり、SDGsが出現する前からサステナビリティ先進企業を中心に広く使われてきている。目標設定の詳細プロセスについては今後、このコラムで記載する予定なので、ここではどのような視点でマテリアリティを考えたらよいかを簡潔に述べる。

 取り組み項目は、社会(外部)向けの困り事の解決と、自社(内部)向けの困り事の解決に大別できる。

■社会(外部)向けの困り事の解決
 まず社会(外部)の取り組みについては、自社の技術や製品・サービスを活用・展開し、さらには他団体と連携することによって、社会(外部)の困り事へのソリューションを考える。そのためには自社の事業ごとのバリューチェーンを明確にして、バリューチェーンの各段階に顕在・潜在する困り事(ニーズ)を明らかにすることだ。

 困り事を探すときは、不便、不安、不満、不適切、不足、不経済、不平等などの「不」を考えるとよい。社会(外部)の困り事の中には、気候変動などさまざまな環境問題やコロナなどのパンデミック、格差問題などの社会問題が含まれる。

 そしてこれらの困り事の解決による社会的な意義を社内でよく認識すべきだ。その際、独り善がりにならないために、こうしたソリューションの提供が、「ステークホルダーから共感・納得を得られて、応援したい会社につながるか?」を一つの評価視点にするとよい。

■自社(内部)向けの困り事の解決
 一方、自社内の困り事のソリューションについては、自社内で顕在化している困り事のほか、先進企業の事例なども参照して取り組み内容を考える。貧困、ジェンダー、教育、不平等、働き方などSDGsの目標No.そのものをチェックリスト的に使うことは可能だが、具体的には自分が「入社したい会社」の理想を描くのが分かりやすいかもしれない。給料が良い、ワークライフバランスが取れている、仕事の生産性が高い、組織の風通しが良い、働きがいがある、自己成長が感じられる、給与・昇進が公平・公正である、子育て期間の業務体系が柔軟である、安全・安心して働ける、ガバナンスがしっかりしている・・・など、いろいろとあるかと思う。

 こうしたことを社内で議論し、ありたい姿を描く。自社が「入社したい会社」に転身することは、社員のモチベーションやエンゲージメントの向上、優秀な社員の採用という社内的なメリットだけでなく、見本として他社に影響を与え、ひいては社会全体の貢献にもつながる。

「どう目標を設定したらよいか分からない」多くの企業の方々には、「共感・応援したい会社になる」「入社したい会社になる」という視点で議論を重ねていただきたい。

コンサルタント 山田朗(やまだ あきら)

生産コンサルティング事業本部 品質革新センター
シニア・コンサルタント

生産、開発部門のコンサルティングを経て、環境分野を中心としたコンサルティングに従事。主要テーマ:環境・サステナビリティ経営戦略立案、環境マネジメントシステム(ISO14001)の高度化、LCAを活用した環境負荷の定量化と削減、温室効果ガス削減、省エネルギー推進(エネルギー生産性)、資源生産性向上支援およびSDGsを経営に活かす支援などを中心に活動。