マネーインフラを左右する民間の取り組み
マネーのインフラは歴史を通じて、民間と公的主体が協力して創り上げてきました。手形や小切手、電信送金、自動口座引落し、クレジットカード、ATM、QRコード決済など、マネーや決済を巡る大きな歴史上のイノベーションは、そのほとんどが民間によって進められたものです。
現在の状況のもとで、中央銀行がCBDCを発行したからといって、それでマネーの課題が全て克服され、インフラが革新されるわけではありません。例えば、中央銀行が自ら、さまざまなニーズに対応できるプログラムをCBDCに組み込んだり、CBDCに紐づけたポイント制度を運営したり、中央銀行が一般市民について自らマネロン対策やKYC(顧客確認)を行うことは現実的ではありません。
マネーのイノベーションの多くは、やはり民間に委ねられています。ビジネスニーズに応じたマネーの多機能化や最先端セキュリティ技術の活用、プラットフォーム間の相互運用性の向上、マネロン対策やKYC対応などは、主に民間で取り組むべき領域です。今後、仮にCBDCが正式に発行されたとしても、これがマネーインフラ全体の利便性向上に結び付いていくかどうかは、民間の役割にかかっている部分が大きいのです。
筆者が座長を務める「デジタル通貨勉強会」では、CBDCについて特定のスタンスは持っていません。CBDCを発行するか否かを決めるのは、あくまで中央銀行です。我々としては、民間と中央銀行の取り組みがプラスの相乗作用を起こしながら、日本のマネーインフラのイノベーションが進むことを願っています。
◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。
◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。