「現金だけを代替し、預金を侵食しない」ことは可能か?

 しかし、このような仕組みを現実に設計することは容易ではありません。

 まず、民間銀行が「自分の債務である銀行預金」と「中央銀行の債務であるCBDC」を並べて提供するのは、一般の人々にとって、かなりわかりにくい姿になりそうです。とりわけ、現在のように預金金利がほとんどゼロに近い状況では、両者の区別は容易ではありません。そうなると、「預金よりもCBDCで持っていた方が良い」と考える人々も増え、預金はかなり減少するかもしれません。

 もちろん、各国もこの問題を十分に認識しており、CBDCの検討に際しても、これが現金だけを代替し、預金はなるべく侵食しないようにする設計が課題となっています。この観点から、一人が保有できるCBDCの額を制限してはどうかといったアイディアも出されています。

 しかし、現在流通している現金については、その保有額に制限はありません。このことは、現金と預金が常に一対一で交換できる背景となっています。一方で、CBDCの保有額に制限を設けると、CBDCに「希少性」が生まれてしまいますので、預金や現金と1対1で交換できないケースが生じ得ることになります。そうなると、CBDCの価値が振れてしまい、決済手段としての利便性が影響を受けかねません。

 このように、CBDCの発行を巡っては、解決されるべき多くの課題が残されています。だからこそ、主要国はなお、CBDCの正式発行には至っていないわけです。