IBM×スタートアップで共創、真のニューノーマル

信頼をベースにつながり合いパートナーシップを結ぶ時代へ

森川 直樹/2020.7.31

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ニューノーマルの到来でビジネスはどう変わる? 社会は誰がどうやって築く?

 終盤にさしかかり、いよいよこのイベントの呼び物として注目を集めていたパネルディスカッションが行われた。

(1)ニューノーマルのデジタル変革とデータ活用
(2)データ活用のこれから
(3)ビジネス変化・社会変容をチャンスと捉える


 以上3つの項目について、慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教授の宮田裕章氏(「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げる大阪・関西万博2025に構想段階から加わり、このほどテーマプロデューサーの1人にも決定。他方、LINEを用いた「新型コロナ対策のための全国調査」で2500万人もの回答をスムーズに集めたことでも注目を浴びている)と、日本IBMで戦略コンサルティング&デザイン事業統括  事業部長を務め、同社の変革チャレンジの中核を担う藤森慶太氏が、枠に囚われない自由な議論を展開した。以下は、両氏から放たれた印象的なフレーズの数々。

宮田氏「ニューノーマルの時代を語る前に、『古いノーマルは果たして本当に素敵なものだったのか』を問い直さないといけない。今回のパンデミックによって、満員電車がいかにストレスフルだったかに気づいたように、今はノーマルの見直しをする最後のチャンスだと捉えなければいけない」


写真:慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教授 宮田裕章氏

藤森氏beforeコロナのDXは、経済的便益に基づいた変革発想で動いていた。ところが緊急事態宣言下の自粛期間中に大きな意識変動が起きた。“悩みの質が変わった”と言ってもいい。withコロナ、afterコロナのDXは確実に実質的変革志向へと様変わりしていく」

宮田氏「石油・石炭は使ったらなくなる資源。排他独占型の資源だった。手にした者が勝つのだから、蹴落とし合いの競争がノーマルだった。ところがデジタル社会の原資であるデータは使ってもなくならない共有財であり、持つだけでは価値を生まない。使った者が価値を得る」

藤森氏「かつての企業による社会貢献はCSRという言葉で語られたけれども、文字通りそれは“責任”でしかなく、企業は受け身の姿勢になりがちだった。ところが、2009年ユニリーバCEOに着任したポール・ポールマン氏は『地球環境や人権への配慮はコストではなく、長期的な利益の追求そのもの』と明言して経営にその思想を反映。その後、同社の売上は急伸し、株価に至っては3倍にまでなった。企業が社会課題を解決するのは“責任”ではなく、企業の“目標”そのものなんだということを証明して見せた」

宮田氏「自粛生活を強いられ、巣ごもり需要というものが取り沙汰されたけれども、そうした需要に関連した事業のすべてが支持されたわけではなかった。動画配信は、リテールのAmazon.comやNetflixが特に伸びているが、なぜかといえば、彼らはユーザーの体験価値にまで踏み込んだコンテンツを構築できていたから。そういうDXを進めているから。コンテンツの圧倒的変容という現象が起きているのは事業の世界だけではない。企業だって、『未来に本当に必要な会社なのかどうか』を示せなければ生き残れない。個人もまた、『社会に自分を響かせるためのアンプ』として企業を見なければいけない

藤森氏「『データを活用する』と言いながら、これまで企業は『とりあえず集めてみよう』という動きが主体だった。しかし価値あるモノを持つことにはリスクがある。無駄なデータは持たない、という選択もしなければいけないし、そもそも、どう活用するのかという目的をしっかり打ち立てなければ意味がない。そして、いざ活用をする時には真に有効な基盤(プラットフォーム)を使い、アジリティをもって生産性につなげなければいけない」

宮田氏「今はニューノーマルへの転換期。確かに皆が想像していた以上にテレワークを実践し、たくさんの人がZoomを使ってオンライン・コミュニケーションをするようになったけれども、『本当に満足していますか?』と問いたい。オフラインで行っていたコミュニケーションがオンラインに置き換えられただけ。そんな現状に満足するのではなく、例えば会話がリアルタイムにテキストデータに変換されたりする状況がノーマルになるべきではないか。そしてデータというものは、信頼を得なければ使えない。いかにシェアして、いかに信頼してもらうかを考えるべき」

藤森氏「データにはお金と同然の価値がある、と本気で信じているのなら、企業はそれを使わせてもらう時、ちゃんと価値にして生活者へお返しすることができなければいけない。データを渡すことで価値が返ってくる。そういう体験を重ねた人が『あの会社にはまたデータを渡してもいい』と信頼してくれる。つまり信頼によって勝者と敗者に分かれるのもニューノーマル

宮田氏「かつての豊かさは“所有”がもたらしたけれども、これからはデータという共有財の活用と駆動が豊かさの源泉。一人ひとり、あるいは会社と会社、社会と社会が信頼をベースにつながり合って、パートナーシップを結びbetter co-beingを目指す。つまり、コ・ビーイング、コ・クリエーション(共創)。それによって世界が形成されていく」


写真(右):日本IBM 戦略コンサルティング&デザイン事業統括  事業部長 藤森慶太氏
 

 以上は、わずか40分の間に両氏が交わした言葉のごく一部だが、かつての“当たり前”が根底から覆されていくこれからの時代に、個人・企業・社会はどうあるべきかを考えるためのキーワードとエッセンスが充満した40分間だった。イベントのクロージングに藤森氏はこう締めくくった。

「人と人、企業と企業、社会と社会が、それぞれつながり、垣根を乗り越え共創をしていくしかない時代が間違いなく来ています。そして、鍵を握っているのが今日登壇してくれたスタートアップの面々。今後、日本IBMも、そして私個人も、彼らと信頼でつながり合いながら、ニューノーマルに相応しい価値を追い求めていきたいと思います」