受賞事例から見えてくる今後の評価ポイント

 次に、受賞した取り組みの中でも特に印象的だった事例や、高く評価された事例について石井氏に伺った。

「実は、選考委員会では、経済産業大臣賞の選定に、かなり時間がかかりました。候補として各企業よりすぐりのスタートアップ連携プログラムが多数挙がってきたからです。経済産業大臣賞を受賞したJR東日本は、似た取り組みを行う企業の中でも比較的後発といえます。しかし、『出島』形式で機動的に施策を進めている点や、いろいろなプロジェクトを同時に思い切りよく動かしている点が、他のスタートアップ連携プログラムに比べて頭一つ出ている印象を、複数の選考委員が持たれたのだと思います。『会社としての覚悟が感じられる』というコメントも出ていました」

 また、科学技術政策担当大臣賞を受賞した「ミツバチプロダクツ」の取り組みや意義については「大企業の中で生かせずにいる技術や人材という資源を外に出して、外部資源とつなげつつ、機動的に事業化するという視点は、これからの日本産業にとって非常に重要な意味を持っています。また、この取り組みは、大企業が自社から切り出したものをコントロールしようとするのではなく、ある程度手放しても機能するような枠組みをつくった点が高く評価されています。市場規模が小さい、本業から遠いといった理由で、大企業の中では企画書段階で『没』になってしまうようなものを事業化していく仕組みとして、再現性があるのではないでしょうか」と高評価の背景を分析する。

 さらに、選考委員会特別賞を受賞したローンディールの「レンタル移籍」に関する取り組みについて、「アイデア自体は複雑なものではないが、実現するには非常に手間がかかる仕組み」を、粘り強く運用にこぎ着けた点が高く評価されたという。

 自らも自治体への出向経験がある石井氏も、所属する組織の外に出ていくことについて「出向する人はもちろん、受け入れる側も大変だが、出向者はキャリアパスの鍵となるような非常に良い経験ができるし、受け入れ側にもメリットがある」と評価する。しかし、いくら貴重な経験が積めるといっても、わざわざ安定した大企業からスタートアップへ転職する人材は多くないだろう。こうした状況を真正面から受け止めて、大企業とベンチャーの間で人材流動性を高め、互いに好循環を生み出すレンタル移籍の仕組みを生み出すローンディールの取り組みが高く評価されたのは、納得のいくところだ。