「いついつまでにIPOする」は危険、真の投資価値を目指せ

 外部環境には改善の余地もあるが、当のスタートアップ企業はどう臨めばよいのだろうか。鈴木氏はそれについて興味深い話を聞かせてくれた。

「『上場するぞ』と勇ましく刀を抜いて社員を鼓舞したものの、なかなか実現しないまま、刀をさやに収められなくなっている例を目にします」

 例え多額の資金や支援を得られたといっても、事業は必ずうまくいくとは限らない。上場をすることそのものよりも、上場後もしっかり成長していける収益構造を固める方が大切だと説く。

「特に問題なのが、例えば『オリンピックイヤーまでに上場するぞ』というように、期限を定めて宣言してしまうことです。上場時期は自社だけで決められるものではありませんから大きなリスクになります。期限までに上場が実現しなければ、社内外を含めて徐々に不満が高まっていきます。そもそもベンチャー企業に参画するような人材は、優秀な人ほど成長実感や達成感を求める傾向にあります。その気になれば大企業にだって入れるのに、安定よりも自身と会社の成長に魅力を感じる人たちです。そういう人たちは、『ここはダメだ』と思えば、さっさと働く場を変えてしまいます」

 上場するか否かはともかく、スタートアップ企業に限らず評価される企業の尺度として経営者が意識するべき三つの条件があると鈴木氏は言う。

「まず『こんなに儲かります』ということよりも、『こういう事業で世の中に貢献していきます』という視点こそが重要です。ビジネスがきちんと市場や社会で機能し、価値を生み出しているかどうか。それを把握し、発信できる経営者でなければいけません。

 二つ目の条件は、ビジョナリーであること。規模の小さな企業ほど、リーダーである経営者の能力が問われます。既存のプレーヤーとの差別化やそれを実現する裏付けなど、その経営者にどれだけ先を見越したビジョンがあるかにかかっています。

 三つ目は、経営者だけが目立っている会社ではないということです。二つ目の条件と矛盾するように聞こえるかもしれませんが、どんなに優れた経営者がリードしていても、その理念やビジョンが高邁でも幹部や社員に浸透していない組織では成長を阻害してしまいます」

 これらは、資本市場のアナリストだけでなく事業アライアンスを進めるうえでも、企業を評価・判断する際のポイントと合致すると鈴木氏は言う。

 この三つの条件をクリアするのはたやすくはないものの、最近はそれらを満たすスタートアップが着実に増えているという。鈴木氏は最後にこう付け加える。

「だからこそ、スタートアップ企業の経営者は、大企業との連携に臨む際も、三つの条件を胸に、しっかりと見極めをしてもらいたいと思います。大企業には、残念ながら世の中の流れに押されて『うちもやらないとまずいよね』という発想からオープンイノベーションを唱えるところがないとは言えません。三条件を備えるベンチャー企業なら、しっかりとしたビジョンの下、組織を整え、真剣に社会に貢献しようとしているのですから、どの大企業とアライアンスを行うかの判断も見誤らないで欲しいと思います。また、大企業についても、『資金を出す』立場という目線ではなく、自社に必要な技術やサービスを協働して育むという対等な目線を持ってもらいたい。そう強く望んでいます」