渋谷にある「Plug and Play Shibuya」の1階には広々としたコワーキングスペースがある。

 2017年11月、シリコンバレーに本社を置く世界最大級のアクセラレーター・VCであるPlug and Playがジャパンオフィスを開設した。代表のフィリップ・誠慈・ヴィンセント氏が目指すのは「世界を日本に。日本を世界に」だという。グローバルとの共創に苦慮する日本の大企業や、世界進出の事例が限られるスタートアップ企業の実状をどう見ているのか?

「このままではやばい」。日本育ちのヴィンセント氏がシリコンバレーで痛感した「日本のイノベーション挑戦の現実」

 高校卒業までを日本で過ごしたヴィンセント氏は、米国サンディエゴ州立大学で国際ビジネスを学び、日本の商社に就職した。シリコンバレーの拠点で約3年間(2012~14年)、米国のスタートアップ企業を日本に紹介する事業に携わったという。Plug and Playとはこの時に出会った。有望なスタートアップ企業を知るために同社を活用し、数多くのピッチを聞いたという。ではなぜ転職を決意したのか?

「Plug and Playが展開するアクセラレーションプログラムに魅力を感じた、というのも理由の一つですが、一番大きな理由は、当時の私が日本企業の在り方にフラストレーションを抱えていたからです」

 魅力的なスタートアップ企業を日本に紹介しようとしてもなかなか前に進まない。シリコンバレーならではのプロジェクトを提案しても一向に実現しない。もどかしさを感じ、その状況を変えたくてPlug and Playに転職したのだという。しかし、さらにもどかしさを募らせることになる。

「シリコンバレーには、世界中からイノベーションのチャンスを求めてスタートアップ企業と大企業が集まってきます。ところが日本の大企業は、わざわざシリコンバレーにやって来たのに、担当者の多くが十分な意思決定権を持っていない。Plug and Playに転職して分かったのは、そうした日本企業の担当者が、かつての私と同様のフラストレーションを抱えているという現実でした。また、私が入った頃、Plug and Playは各国にオフィスを設立する動きを加速させていました。実績がグローバルで認められ、諸外国の政府や大企業からローカルオフィス設立のオファーが届くようになったからです。でも、なぜか日本からオファーがなかったんです」

 現在Plug and Playは世界26カ所に拠点を持ち、240社以上のグローバル企業がパートナーとして参画している。年間400社以上のスタートアップ企業を支援する、名実ともに世界最大級のアクセラレーターだ。日本に強い愛着を持つヴィンセント氏としてみれば、シリコンバレーで成果を上げられない日本だからこそ、Plug and Playを誘致する意義がある。歯がゆい思いをしているところに、三菱UFJ銀行から「その気があるならお手伝いします」と声が掛かった。17年のことだった。

「もちろん、即座にジャパンオフィスの開設を引き受けましたし、ボスからも『行ってこい』と即答をもらったので、早速準備に取り掛かりました」

 久しぶりに日本の状況をリサーチして分かったのは、ドメスティックなアクセラレーターは東京を中心に増え始めているということだった。しかし、スタートアップを十分に支援できるほどの数には至っておらず、ましてやグローバルな展開につながるエコシステムも未熟と言わざるを得ない状況だった。

Plug and Play Japan始動。ヴィンセント氏が掲げる四つの目標

Plug and Play Japan 代表取締役 マネージング・パートナー フィリップ・誠慈・ヴィンセント氏

 やるべきことはいくつもあったが、ヴィンセント氏は以下の三つを当初のTo doに挙げた。

①オフィスの場所を決めること
②支援してくれる大企業も増やしていくこと
③日本で展開すべきテーマを決めること

 立地は最後まで迷ったが、「Plug andPlayなら渋谷がカルチャーフィットだ」と感じて渋谷に決めたという。協力を買って出てくれたのは東急不動産だった。こうして17年11月、東京渋谷にPlug and Play Japanのオフィスがオープンした。コワーキングスペースを備えるオフィスは珍しく、シリコンバレーの本社オフィス以外にはあまり例がないという。

「日本に必要なのは、グローバルに開かれたハブとなる場所をまず持つことだと考えたんです。今までは海外企業にも開かれているようなスペースがありませんでした。それならば私たちが用意しようと考えました」と、コワーキングスペースを備えた理由を語る。

「やるべきこと」の二つ目、サポーター企業を増やす点はどうだったのか。こちらも順調な滑り出しだったとヴィンセント氏は言う。シリコンバレーで多数の日本企業とリレーションを築いてきたこともあり、「日本でやります」というアナウンスをすると多くの日本企業が動き、ファウンディングパートナー10社が早々に出そろった。そして「やるべきこと」の三つ目のテーマ設定は、パートナー企業との話し合いの末、FinTech、IoT、InsurTech(保険×テクノロジー)に決定。日本で最初のアクセラレーションプログラムである「バッチ0」として稼働を開始した。オフィス開設から1年が経過した今、目指しているものは何かを尋ねると、ヴィンセント氏はこう答えてくれた。

「四つの目標があります。一つはグローバル・イノベーション・プラットフォームとして日本のスタートアップエコシステムをどんどん底上げしていくこと。二つ目がハブとして本格的に機能していくこと。三つ目が日本国内のスタートアップ企業にグローバルなチャンスを提供するアクセラレート。四つ目は海外企業に向けて日本が入りやすい国だと知ってもらい、多くの海外スタートアップ企業に訪れてもらうことです。内外のベンチャー企業が集まるようになったら、いずれ投資も考えていますが、まずはこれら四つで確かな実績を積み上げていきたいと思っています」

 上陸から1年。この間にもさまざまな出来事があったというが、その詳細については次回、後編で語ってもらう。