長年にわたり日本の創業政策に携わってきた内閣府・石井芳明氏

 日本国内の開業率は徐々に伸びており、起業に対するハードルも次第に下がってきている。しかし欧米や「国民総起業家」を掲げる中国に比べると、勢いに差があると言わざるを得ない。

 こうした状況を打開するために政府が行っている、スタートアップ支援やオープンイノベーション支援の政策について、内閣府でオープンイノベーション支援に従事している石井芳明氏(以下、石井氏)にお話を伺った。

政府によるスタートアップ/オープンイノベーション支援の歩み

 もともとは経済産業省で中小企業やベンチャー企業の支援政策を担当してきた石井氏。2013年より、第2次安倍内閣で掲げられていた成長戦略の一環として、様々な政策を実行していった。

 当時は今ほど国内における起業やオープンイノベーションへの関心は高くなかったというが、そうした状況を打開するために政府はどのような施策を行ってきたのだろうか。石井氏自身の経歴を基に振り返っていただいた。

「はじめはベンチャー支援のコアとして、ベンチャーキャピタル(VC)やアクセラレーターのネットワークを作ることから始めました」と語る石井氏。支援側のネットワークを作り、その後にベンチャー企業の成長を促進するために「ベンチャー創造協議会」を創設。経済をリードする大企業とベンチャーとが連携できる仕組みを作った。

「その後に行ったのがグローバル展開支援。安倍総理がシリコンバレーを現役総理として初めて訪問された流れの中で、ベンチャー企業と世界のマーケット、あるいは世界のプレイヤーとを繋げる支援をしました」

 また、6月11日には経済産業省の「J-Startup」というスタートアップ企業育成支援プログラムが立ち上がった。こちらは日本では生まれにくいとされるユニコーン企業へと成長する可能性のあるスタートアップ企業を選出し、集中支援するというもの。政府によるスタートアップ支援は、段階を経て次のステージへと向かっている。

 石井氏をはじめとする政府の尽力もあり、起業のハードルも下がり、中小企業庁が公表している2018年版「中小企業白書」によれば、日本の開業率は2001年の4.4%から2016年で5.6%と、緩やかに増加している。昨今では大企業の中でも積極的にオープンイノベーションに取り組む企業が増えてきた。

政府による「お墨付き」で、国内で重視される「信頼性」を担保

 安倍政権の発足をきっかけに、国内における起業やオープンイノベーションを巡る状況は少しずつ変わっていった。一方で、オープンイノベーション等の新たな取り組みの有用性を知りながら、上手く活用できずにいる企業も多い。この辺りの原因や解決策について、石井氏に語って頂いた。

「大企業とベンチャーの連携や大企業内部での新規事業の立ち上げにおいて重要なのは、本業と異なる意思決定メカニズムや事業評価指標を用意すること」だと石井氏は強調する。

「よく『2階建て経営』と言われます。1階が現在を支える本業、2階が未来を拓く新規事業。新規事業や外部との連携は、未知の不確定な分野への取り組みなので、今までの積み上げのある本業とは異なる経営ルールや評価システムを作る。そうして割り切る仕組みを作らないと、本業をやっている人たちから『(新しい事業の担当者たちは)売上も利益も出ないことばかりやっている』と不満の声が上がってしまうし、新規事業の担当も思い切ったことができない。このルール作りが上手くいっていない企業が多いのではないでしょうか」

 さらに、新事業の担当者自身も、社内の各所をまわり、味方のフィールドの外側にいる人たちにも一定の理解をしてもらう努力が必要だという。そうでないと事業に広がりが生まれず、限られた成果しか期待できない。

 また、特に日本では、外部との連携において「過去の実績」が過度に重視される傾向にあると石井氏は指摘する。創業直後の企業は大企業との関係構築がむずかしい、というのはよく知られた話だ。

「例えばアメリカの大企業なら、経営者が(スタートアップの製品やサービスを)見てすぐ採択を決めてしまいますが、日本ではなかなかそうはいかない。日本は物やサービス以前に、その企業の過去の実績やバックグラウンドをしっかり見る傾向にあるからです。日本国内の反応は今一つだったけど、海外に持って行ったら採択されました、というスタートアップの事例を今まで何度も聞いてきました」

 自分たちが手を組もうとしている企業の背景を調べ上げるのは、リスク面からみても決して悪いことではない。だが、実績にこだわりすぎるとチャレンジが不十分になり、スピードが落ちてしまうのは確かだ。

 こうした日本特有の問題に対しての解決策となり得るのが、新たに創設された「日本オープンイノベーション大賞」だ。国内のオープンイノベーションを促進させるため、今後のロールモデルとして期待される先導性や独創性の高い取り組みに対して賞が与えられるというもので、内閣総理大臣賞以下、各大臣賞全てを用意している。

「組織の壁を超えて思い切って新しい取り組みに挑戦する好事例を表彰し、世の中の気運を盛り上げるのがこの新しい表彰制度の目的です」

 政府がオープンイノベーションの新事業を積極的に応援する姿勢を示すことで、新たなチャレンジや起業を応援できる社会に変えていくきっかけにもなりそうだ。