Win-Winな関係を作るために、互いを理解する

 起業/創業におけるオープンイノベーションの意義は、主に「スタートアップの機動性に大企業などが経営資源を補完することで事業を大きく伸ばせること」だと話す石井氏。

「日本では特に、スタートアップが成長する上で必要なヒト・モノ・カネといった資源を調達しづらい状況にあります。アメリカの場合ではベンチャーキャピタルからそうした資源を調達することが多いんですけど、日本では大規模なリスク資金がまだまだ不十分。だから、大企業と連携することによる補完が必要となります」さらに、ネームバリューのある大企業と連携することで一定の信頼性を担保することもできる。

 一方、資源を提供する大企業側にもメリットがある。

「スタートアップを支援することが、大企業にとっても成長機会になると思います。スタートアップと大企業では行動意識や意思決定のスピードが全然違いますが、スタートアップを応援することで、そのカルチャーが大企業の中に逆に入っていくこともあるのです」

 関連して、大企業の若手や中堅のキャリアパスにベンチャー企業への出向を加えて欲しいのだという。

「良い人材ほど外部に出しづらいとは思うんですが、スタートアップのようなスピードのある組織で1年や2年新しいプロジェクトをゼロから立ち上げる経験を得ると、大企業に戻ったときに大きな力になるはずです」

 石井氏自身、大田区役所などに出向した経験から、違う文化に触れることで学べるものは非常に多いと語る。「若手や中堅だけでなく、幹部にもスタートアップのフィールドに出向いていって、積極的に現場の空気に触れることを推進して欲しいですね」と、組織をまたいだ人脈づくりの重要性についても触れた。

 また、国内の起業支援において今後政府が注力していく分野について伺ったところ、ファイナンス面や人材育成。そして、規制改革だと話す石井氏。現在、「規制のサンドボックス」や「グレーゾーン解消制度」といった、業界、企業単位での規制改革を進めることによって新事業をサポートする制度が存在する。こうした制度によって、今後も優れた新事業が生まれ育つ環境が整えられていきそうだ。

 最後に、起業やオープンイノベーションによってビジネスを広げたいと考えている読者へのメッセージを頂いた。

「スタートアップと大企業とで、Win-Winな関係を作るにはどうしたら良いかを考えて、行動することがすごく大事だと思います。そのためには、相手のことをよく知り、相手の立場になって考える。それが第一歩だと思います」

 そして「スタートアップと大企業との一番の違いは時間に対する感覚」だということを覚えておく必要があるという。大企業がスタートアップからの提案を持ち帰った後、一か月以上音沙汰がない・・・というのは珍しい話ではない。

「大企業の人は、相手がスタートアップの場合は機動的に意思決定をしていくように心がける。スタートアップ側は、これから付き合っていく大企業の人をよく見る。皆が皆スタートアップ側の事情を理解してくれるわけではないので、本当に付き合っていける人たちなのかどうか見極める必要があるでしょう。そして、早めに実際の行動を起こすことによって繋がりが深まります」

 相手を理解するには、考えるよりもまずは一緒に手を動かしてみることが有効だという。同じ目的意識を持って、相手の文化や事情を理解しようとする。そうすることで、お互いがお互いにとっての最高のビジネスパートナーへと成長していくことができるのではないだろうか。