前回、スタートアップエコシステムやオープンイノベーションをめぐる日本の状況についてあずさ監査法人 企業成長支援本部/IPOサポート室長の鈴木智博氏に聞いた。今回は、「日本にはユニコーンが生まれない」「日本のスモールIPOは弊害が多すぎる」といった論議もある中、どのようにこれらを捉えているか伺った。
ユニコーン企業を論じるなら正しい理解を
「日本ではスタートアップ企業が育っていない」という話題が出る時に、頻繁に登場するようになったのが「ユニコーン企業が少なすぎる」という指摘だ。一般的に評価額10億ドル(約1100億円)以上の未上場企業、それがユニコーンの定義であり、これまで日本のユニコーンは2社だけと言われてきた。AI開発事業のプリファードネットワークスと、フリマアプリ事業のメルカリである。
だが2018年6月にメルカリが上場したため、日本のユニコーンは1社だけになった(18年11月現在)。米国調査会社CBインサイツによれば、世界には260社を超えるユニコーンが存在しており、その内の約200社が米国企業と中国企業とで占められているという。そんな中、たった1社しかないのが日本の現状というわけだ。だが、単なる数の比較は違和感があると鈴木氏は言う。
「日本は世界の先進国ではまれに見る“小ぶりな会社でも上場が可能な国”です。いわゆるスモールIPOです。米国をはじめ、シンガポールや香港でも500億円以上の時価総額がなければ、上場はそう簡単ではありません。
ところが日本では、今年上場した企業の中に時価総額500億円を超えるような企業はほとんどありません。多くのケースでは、100億円未満の時価総額で公募価格が決まり、初値で150億円とか200億円の評価になることが『IPOの成功(ロール)モデル』となっています。つまり、評価額が10億ドルに達する前に上場してしまう企業が多いのですから、当然ユニコーンは生まれにくくなります。そういう環境上の違いは知っておくべきでしょう。
また、日本の健全なスタートアップの起業家は、必要以上の資金があっても必ずしも事業の成功につながるわけでないことを理解しており、日本の起業家の多くは、多額の資金調達によって注目されることよりも、中長期的な視点で事業を育むことが最適な経営戦略であることを知っています」
そんなことは分かっている、問題は簡単に上場できてしまうスモールIPOにある、と言う人もいるだろう。これについては鈴木氏も認める。
「上場前から証券会社や監査法人が関与し、その推薦書を持って取引所に申請する。これは日本独特です。運転免許で言えば教習所と同じです」
教習所なら、交通ルールのいろはを知らなくても、言われるがままにすればやがて免許が交付される。対して米国はどうか。「試験場しかなく、十分に練習したドライバーがやってくるイメージ」だという。
つまり日本の市場は、玉石混交のまま上場企業が増える状態を招く可能性があるというわけだ。これを理解し、真に価値ある企業が上場後も発展するよう支援したいと鈴木氏は考えている。ただ、「スタートアップ企業や中堅企業にも、しっかりと洗練された経営を行っている企業は増えている」と見ている。