いかに相手の本気を引き出すか?

森岡:そうですね。大企業がスタートアップ企業に期待しているのも、世界と戦えるような破壊的イノベーションですから、少々の成功では満足せずに「もっと上を見ろ」という接し方をするのだと思います。私としては、スタートアップ企業のほうもさらにもう一歩踏み込んで「大企業の本気を自分たちの働き掛けによって引き出すようでなければいけない」と思っているんです。「大企業との連携を得たのはいいが、なかなか望んでいるような応援をしてくれない」などという声を他のスタートアップ企業から聞くこともあるのですが、本気の支援を得ようとするなら自分たちも本気で向き合わないと駄目だろうと思うんですよ。そうして大きな支援を得ることができたなら「絶対に成功させてやるぞ」とモチベーションも一段上がりますし、本当の意味での団結が双方に生まれていく。

石井:近年、大企業とスタートアップ企業のマッチングイベントが省庁によって開催されることも増えていますが、そういう場面で私が重要だと感じているのも「スタートアップ企業が大企業から何を引き出そうとしているか」です。同様に大企業もまた「スタートアップ企業に何を求めているのか」を明確にすべき。森岡さんご指摘の通り、双方が意志をもって行動した時、初めて連携は機能するのだと思います。以前、高橋さん(高橋誠 KDDI代表取締役社長)に、「KDDIはなぜスタートアップ企業との連携を次々に成功させているんですか?」と聞いたところ、高橋さんはこう教えてくれました。「僕が入った時、この会社はDDIというスタートアップ企業だった。だからスタートアップ企業の気持ちや状況がよく分かるんですよ」と。

森岡:ありがとうございます。でも、当たり前のことですが、最初からうまくいっていたわけではないんですよ。例えば「セキュリティーの問題があるからSNSなんて使うな」と言われ、こっちも「そんなこと言っていたら何も変わらない」と言い返すような構図などもありました。超保守派vs超アグレッシブの対決みたいな(笑)。けれども、主張するだけでなくお互いの立場も考えて答えを探していけば、ちゃんと落としどころというのは見つかるもの。大企業もスタートアップ企業も、粘り強く向き合い続けることが肝要だと思っています。

 以上は、セッションで行われた対話のごく一部。他にも「攻めの人材、守りの人材をどう整えるか」「企業文化の違いをどう超えていくか」等々、多様な角度で話は続いた。最後に石井、森岡両氏から、オープンイノベーションに携わるあらゆる人々へのメッセージが語られたのだが、この中で石井氏は「もはや日本は結果を出して世界で勝っていかなければいけない局面。そのためにも、大企業とスタートアップ企業の連携がグローバルに成功した事例をつくり、モデルケースとして広く伝えていきたい」と示した。だからこそ、Supershipが体現しているハイブリッドスタートアップという位置づけに期待をしているのだと石井氏が告げると、森岡氏もまた「われわれが世界へ飛び出して成功をつかむことが、きっと日本を盛り上げる一助になるはず」と答えた。「連携」は変革のための処方箋ではあるが、「どう連携するか」こそが鍵となる。日本式共創の1つの現れとしてのハイブリッドスタートアップに官民が期待を込めているのは間違いない。