森岡:よく分かります。私はそれを「力学の違い」だと解釈しています。情熱を前面に出して突っ走るのがスタートアップ企業の力学だとするなら、多層構造の大組織にあって、極力間違いを起こすリスクをケアしながら動くのが大企業の力学。この「違い」を認識すべき、という石井さんのお考えに共感します。ただし「違い」にはポジティブな点も多数あるんです。Supershipはハイブリッドスタートアップという独自の立ち位置を得たおかげで、スタート時から大企業の力学に触れてきましたが、おかげで「規模感の枠」を広く意識しながら経営することができました。

田中:「規模感の枠」とは、どんなものを指すのでしょう?

森岡:Supershipは既存のスタートアップ企業の融合でスタートしたこともあり、設立からたった2年で営業利益十数億円を計上しました。われながら「スゴイことだ」と捉えていたのですが、KDDIの上層部からはまったく褒めてもらえませんでした。「今の十数億を先々100億にするにはどうするんだ? そのための戦略はしっかり考えてあるのか?」と、事あるごとにお尻を叩かれたんです。これでは自画自賛の天狗になろうにも、到底なれません(笑)。けれどもそのおかげで、安直に現状満足をせず、自分たちが持っているはずの「伸びていくための素地」というものを気付かされ、さらに上を目指すことができました。

田中:森岡さんがおっしゃるハイブリッドスタートアップの利点は、何も資金面でのバックアップばかりではない、ということですね?

石井:森岡さんのお話、とても共感します。私も立場上、大企業の経営層の方々とお会いする機会が多いのですが、皆さん共通して目線が高い。十数億を稼いでも満足せずに、百億、千億、兆というように、常により高いハードルを見ておられる。そういう方々と起業時から並走できるハイブリッドスタートアップには、プラスの効果が非常に大きいと考えます。実は最近、われわれ役所の人間も企業経営陣の皆さんに「高い目線を持ちましょう」という提言をするようになっているんです。ここでいう「高い目線」とはすなわち、グローバルな成功を目指すということ。時価総額10億ドル以上を備える、いわゆるユニコーン企業は今、世界に約200社あります。そのうちの実に半分が米国企業、2割が中国企業で、日本企業はごくわずかなんです。この実状を変えていかなければいけません。そこで、VCをはじめ官民のいろいろな支援者からお話を聞くと、共通して出てくるのが「日本のスタートアップ企業は、もっと最初から世界を意識すべきだ」という声なんです。とはいえ、設立間もない小規模な企業が、いきなりグローバルのマーケットに出ようとしても足りないものがいろいろある。拠点もないし人脈もない。それも含めて、大企業との早期の連携が重要だと思うのです。