この日のモデレーターである田中里沙氏は、1990年代から雑誌『宣伝会議』を率い、政府や企業の広報宣伝、マーケティングに長年深く関わると同時に、現在は事業構想大学院大学の学長も務める人物。その田中氏から石井、森岡両氏にこんな質問が投げ掛けられた。

田中:大企業とスタートアップ企業が連携しようとしてもなかなかうまくいかない、という話は本当によく聞きます。お二人は大企業のこともスタートアップ企業のこともよくご存じのはず。一体どんな違いがあって、それを埋めるにはどうしたらよいのかを教えてください。

事業構想大学院大学 学長 田中里沙氏

石井:大企業の方々は「イノベーションを起こさなければいけない」ことを重々わかっています。しかし、どうしても主軸の事業に予算も人員も投入せざるを得ない。そもそもイノベーションの多くは「小さくて、新しくて、うまくいくのかどうかはよく分からない」というところから発生するものですから、いかに大企業であっても、そこにお金やエース級の人材をどんどん投入できるかというと、なかなか難しい。そのため、全てのリソースとエネルギーを「小さくて新しいもの」に投じているスタートアップ企業との連携に期待する傾向が近年急速に高まっているわけです。ではなぜこの連携がなかなかうまくいかないのかといえば、田中さんもおっしゃったように、両者にはいくつものギャップがあるからです。

田中:端的にどんなギャップがあるんですか?

石井:私はスピード感の違いが大きいと考えます。意思決定のスピードがかなり違う。『オープンイノベーション白書』でも、大企業に向けて「なるべくスピード感を持ってスタートアップ企業と接しましょう」と強調しています。大企業はどうしても「間違いが起きないように意思決定する」ところがありますから、時間が掛かってしまいギャップが生まれる。例えば会議の場で意思を即決できず「持ち帰って判断します」と言って待たせている間に、スタートアップ企業の資金が底をついてバーンアウトしてしまうというケースもあるんです。こうした事態を招かないように、スタートアップ企業の側も大企業特有の事情を織り込んで動かなければいけないと思います。双方が「違い」を理解し、尊重して歩み寄っていくこと。それが必要なんです。