フィンランドの「SLUSH」

 4年前の2014年11月にフィンランドのヘルシンキにおいて、毎年秋、ベンチャーの大規模イベント「SLUSH」が開催されているということで、実際に訪問したことがある。

 ヘルシンキの中心街の少し北寄りのコンベンションセンターには世界79カ国から1万4000人の若きベンチャー経営者や投資家が集い、25年前に隣国スウェーデンから観察していた頃の物静かなフィンランド人たちとは想像もできないほどの熱気が感じられた。

 昨年の「SLUSH 2013」の来場者数は7000人ということなので、正に倍々ゲームで規模が拡大し、1万7000m2のコンベンションセンターでの開催は初めてということである。東京で言えば東京ビッグサイトの大ホール2つ分以上の広さとなるが、そこに5つのメイン会場があり、熱いプレゼンテーションが展開され、通路にも所狭しと各ベンチャー企業のデスクが並び、具体的な商談が行われていた。

 冒頭挨拶はフィンランド首相が行い、「フィンランドはEUの玄関口であるとともに広大なロシア市場の隣にあり、高等教育を受けた勤勉な国民が存在し、そしてSLUSHがある」と、フィンランドの優位性を強調した。また、隣国エストニアは、同じくフィン族の末裔で言葉もフィンランドとほぼ共通しているが、エストニア首相もパネリストとして登場するという力の入れようであった。若干空気が違ったのは、中国の副首相が英語逐語訳の中国語でゲスト挨拶をしたことだ。

 日本からは、楽天の三木谷社長が両首相と共にパネルディスカッションをこなし、また、ガンホーおよびモビーダの孫泰蔵社長が前年に買収したフィンランドのゲーム会社、スーパーセル社とディスカッションを行った。報道によれば、三木谷社長はこの後エストニアを訪問したということである。

 圧巻だったのは、スマートフォンの時流に乗り遅れ、携帯電話機のセールスが退潮している地元ノキアのプレゼンテーションであった。冒頭「Nokia is dead? Nokia is no more?」で始まり、そうではないときっぱりと否定し、新発売のアプリケーション「Z Launcher」および249ドル(+税)という価格の7.9インチのタブレット「Nokia N1」のプレゼンテーションが行われた。アップルのスティーブ・ジョブズばりのプレゼンで、所々で愛国的なフィンランド人たちの歓声が挙がっていた。

北欧のベンチャーの熱気

 どうだろう。規模については会場面積にしても参加者数にしても圧倒的に「SLUSH」の方が大規模だが、「Latitude 59」側としては、「SLUSH」は秋、「Latitude 59」は春の北欧のイベントとして、お互いにパートナーだと位置付けているようである。それがエストニア首相のヘルシンキ訪問にも表れていると思う。

 メイン会場に登壇してのプレゼンテーションは、双方とも日本人は2人と同じであるが、会場を見渡した時に、参加者の中に圧倒的な日本人のプレゼンスを感じたのは「Latitude 59」の方である。いずれにせよ、どちらのイベントも熱気がすごく感じられ、日本の同種のイベントとは比べものにならないほどの格の違いが感じられた。

 ベンチャーは成功率が必ずしも高くないので、裾野の広がりが必要であり、日本もうかうかしていられないとの印象を強くしている。