5月15日から22日にかけて、陳炳徳・中国人民解放軍総参謀長が米国を訪れた。総参謀長の米国訪問は2004年の梁光烈(現・国防部長)以来、7年ぶりであった。

 これによって、米中軍事交流が復活したことになる。米中軍事交流は、2010年1月にオバマ政権が64億ドル相当の台湾向け兵器供与を行ったことで、中断していた。

 軍事交流は何のために行われるかと言えば、相互理解の促進を通じた信頼醸成であり、要するに「手の内」をさらすことによって相互の不信や疑心暗鬼を取り去ることを目的とする。

 こう書けば、大変結構なことだと言えるかもしれない。軍事交流は大いにやるべきだということになる。

 しかし、実態は違う。これと似たようなものに「貿易の自由化」がある。貿易は平等かつ公平の原則のもとに自由化されるべきであり、輸入品に関税をかけて自国の産業を保護するのはけしからん、という議論だ。一見すると正論のように見えて、実際は違う。

 軍事交流も、「貿易の自由化」も、それが正しいことだというのは「強者の論理」である。強者は、軍事力の「手の内」を明かすことで優位に立てる。「貿易の自由化」も、輸出競争力のある強者による、弱者の国内市場を席巻するための論理となる。

軍事力の強大さを見せつけたい米国

 こうした点を踏まえてみれば、米中の軍事交流はすなわち両国の「心理戦」の一環であることが分かる。

 今回は中国の参謀総長の訪米だから、米国が軍事力の「手の内」を見せる番だ。米国の軍事力の強大さを見せつけ、中国の対抗意識を挫くだけのものを誇示する必要がある。

 陳炳徳総参謀長以下、随行した30名あまりの人民解放軍将官が参観したのは、以下の施設だ。

 米大西洋艦隊、地中海艦隊の母港であり、世界最大規模を誇るバージニア州の「ノーフォーク海軍基地」、米東海岸最大の陸軍基地であるジョージア州の「フォート・スチュアート基地」、ステルス戦闘機の開発などで知られるネヴァダ州の「ネリス空軍基地」、そしてカリフォルニア州のフォート・アーウィン陸軍基地に付属する「ナショナル・トレーニングセンター」(ここでアフガン戦争での戦闘訓練などを行う)である。

 これらの基地は米国の軍事力の実態を印象づける恰好のモデルとして選択されたのだろうが、米国内では、例えばネリス空軍基地を見せるのはサービス過剰ではないかという危惧の声もあった。