グローバル金融危機をきっかけに、中国経済は「過剰設備」「過剰労働力」「過剰債務」という3つの「過剰」が顕在化するようになった。中国企業は明らかにオーバーキャパシティーの状況にあり、輸出市場の低迷と国内消費不振の間で板ばさみとなっている。
今回の金融危機は基本的に米国の過剰消費によって引き起こされたものと言われている。同時に、日中などのアジア諸国の過剰貯蓄がそれを助長したのも事実である。
中国に限って言えば、労働分配率の低さが国民の過剰貯蓄と過剰設備をもたらし、経済の対外不均衡につながっている。また、国有企業は国有銀行からの借り入れに安易に頼ってしまい、過剰債務になっている。
一方、13億人の中国にとって政策の軸足を雇用の創出に置くべきだが、長年、政府は7~8%の成長率の維持にこだわってきた。しかし、結局は失業問題が改善されず、社会の不安定要因になっている。
現在、中国政府は8%の経済成長率の維持に躍起となっているようだが、筆者はそれよりも、この3つの過剰を解消することが急務だと考える。以下では、3つの過剰が生み出されている理由と背景を見ていこう。
低い労働分配率が生み出す過剰貯蓄と過剰設備
まず、過剰設備である。過剰設備の大きな原因となっているのは、中国の労働分配率の低さである。これは国民の過剰貯蓄の原因ともなっている。
一般的に、儒教の影響を強く受ける東アジア諸国はアグロサクソンの国々より貯蓄率が高くなる傾向が見られる。しかし、中国の高い貯蓄率がすべて儒教の影響と片付けるのは明らかに説得力を欠いている。
中国では、低すぎる労働分配率が貯蓄率を押し上げ、所得格差を拡大させる一因となっている。中国の労働分配率はアメリカの79%(2007年)と日本の62%(2006年)に対して、わずか34%(2008年)しかなく、明らかに低すぎる。
家計が安心して消費するにはいくつかの前提条件がある。
1つは多少のインフレ期待がかかることである。もう1つは基本的な社会保障制度が整備されていることである。
さらに、所得が増えていく見通しが立つことである。しかし、労働分配率が4割にも満たない現状では、家計が消費を控えるのは当然のことである。現に、家計の貯蓄性向は過去20年間で10ポイントも上昇し、28%に達している。