ⓒ 2023 MASTER MIND Ltd.

淡々とした生活、満ち足りた日々

 役所広司がカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞した『PERFECT DAYS』。名匠ヴィム・ヴェンダース監督が日本を代表する俳優である役所広司を主軸に現代の東京を切り取っている。

ヴィム・ヴェンダース監督(©Peter Lindbergh2015)

『アメリカ、家族のいる風景』では、外国人が考えるであろう「これぞアメリカ」という姿を鮮やかに浮かび上がらせた監督。『PERFECT DAYS』も同様に私たちの東京でありながら、見たこともない目線の東京が描き出されていく。

 渋谷でトイレ清掃員として働く平山は押上の古いアパートに暮らし、毎朝、同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働く。週末になると、コインランドリーに行き、古本屋をのぞき、たまの贅沢で行く店もある。

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 静かに淡々と日々、生きているが、その毎日は同じことの繰り返しに見えて、二度と戻らない日。1日1日を味わうように生きている彼に思いがけない出来事が起きる。

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 映画は役所広司演じる平山の姿を追い続ける。ドキュメンタリーのようなフィクション。下町のアパートに住み、植木を愛し、文庫本を読み、カセットテープでオールディーズを聴き、オートフォーカスのコンパクトカメラでフィルム写真を撮る。仕事終わりには銭湯そして居酒屋。電話はガラケー。

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 今時の若者が大喜びそうなレトロな世界だが、彼はもうどれぐらい、そうした生活を続けてきたのか。目まぐるしく変わる東京の空の下、彼の時間だけ、ゆっくりと過ぎていく。

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