音頭とビールとパーティーと

 JR京浜東北線の大井町駅からほど近い私の事務所から歩いて5分の所に品川区役所があります。その3階ロビーには、品川名誉区民として8人の人物が肖像写真とともに顕彰されていますが、その中でもひときわ目を引くのが、作曲家の服部良一です。

 コロナ禍以前の8月といえば、大井町の駅前で「大井どんたく 夏まつり」が開催され、日曜の夜には、都はるみが歌う服部作曲の『品川音頭』(小磯清明・作詞、石本美由起・補作)が流れる中、多くの人が盆踊りを楽しんでいました。  

 人を大勢集めて自宅でパーティーを開くのを何よりも楽しみにしていた服部良一は、夫人の意向もあって転居が多かったのですが、晩年は東急目黒線の洗足駅や武蔵小山駅にほど近い品川区内に自宅を構えています。

 ビール党だった服部は「一杯のビールから」という発想で書いたメロディーの作詞を、友人の藤浦洸に依頼しました。しかし、アルコールとは無縁のコーヒー党だった藤浦が仕上げた歌は、ご承知のとおり『一杯のコーヒーから』でした。

 歌ってみると、アクセントがコーヒーの「コ」にあって、耳慣れないと違和感を覚え、なるほど曲優先であるだけに、本来は「ビール」だったことが納得できるエピソードです。

 晩年の平成4年(1992)「服部家の人々」というメモリアル・コンサート(ミュージカルだったかな)が竣工したばかりの品川区天王洲アイルの劇場で上演されましたが、私が観劇した日も、親族と共に良一氏が来場、ショーの終了後、2階席から1階の観客に向かって手を振っていたのが、私の見た服部の最後の姿でした。

 服部は翌5年1月30日に亡くなります。85歳でした。

(参考)『ぼくの音楽人生』(服部良一著、日本文芸社)
『評伝 服部良一 日本ジャズ&ポップス史』(菊池清麿著、彩流社)

(編集協力:春燈社 小西眞由美)