発売当日のNHK特集、考古学者の発言はこう切り抜かれた

──どの分野でも研究が進めば新説は出てくるものだと思いますが、『土偶を読む』は、刊行直後から絶賛の嵐でしたよね。そうしたこともあり、半年で6刷とベストセラーになりました。

望月 現在は9刷だそうです。正しいか正しくないかは置いておいて、魅力のある説だったとは思います。バシッと言い切るところもわかりやすいですし。また、竹倉さんの文章も面白いと思います。

 世の中に広まったことについては、やはりNHKの影響が大きかったと思います。発売日に特集されたわけですからね(2021年4月24日放送、NHK総合「おはよう日本」の「土曜特集」、関東甲信越のみ放送、約10分ほどの枠)。

 この放送のなかで、考古学者で文化庁主任文化財調査官(当時)の原田昌幸さんの好意的なコメントが紹介されましたが、あれは、切り取りというより“捏造”に近いものだったと思います。

──望月さんは後日、原田さんに取材をされていて、「あれは、私の意図とは全く違う切り取りをされてしまったものです」という原田さんの言葉が本には掲載されています。原田さんは竹倉さんの説に対して、『これは個人の思いつきに近いもので、学術的には見るところはない』とコメントしているのにその部分は全く使われず、それに続く「しかし、従来の考古学になかった視点で興味深いですね」が、「従来の考古学になかった発想で新たな学問形態の提案」と意訳されて放送されました。

望月 そういうこともあって、考古学者は警戒したと思います。メディアからコメントを求められたものの、専門家が取材を断った例もいくつか聞きました。

『土偶を読むを読む』より(36ページ引用)

──しかし、専門家が黙殺したことで、結果的に専門家の考古学界と、竹倉さんの説を受け入れた一般社会・読者が、どんどん乖離していくことになったのかなと感じます。

望月 「本」には正しいことが書いてある、と一般読者が受け取るのは当然だと思います。それは紙の本が蓄積してきた信用があるからで、本来的には非常にいいことだと思っているのですが、こういった時には逆に鵜呑みしてしまう人が増えてしまう。『土偶を読む』を出した出版社はそういった点でも信頼のある出版社だったこともその要因でした。

 だからこそちゃんとしなければいけないのは著者であり出版社であり、また、お墨付きを与える識者の方やメディアだと思います。特にアカデミズムの世界にいる識者の方には、手放しで絶賛する前に、同僚や知り合いの考古学の専門家に意見を聞いてみるなどしてほしかったなと思います。

──帯や広告にこれだけの人の絶賛評が並ぶと、読者は信じてしまいますよね。当サイトでも、『土偶を読む』の内容の一部を抜粋・再編集した記事を掲載し、大変読まれました。

望月 その記事も『土偶を読む』を広めることにしっかり一役買っています。ある人が評価したら、別の人が評価して……というのが積み重なって「正しい」ものになっていく過程を目の当たりにして、恐ろしさを感じました。こういうことって、他にもあったと思います。